行けなかった甲子園

文字数 513文字

『行けなかった甲子園』

高校3年の春と夏。
俺は甲子園に行けなかった。
野球の推薦で通った高校。
部活に明け暮れた毎日。
地区大会決勝まで行った、2年の夏。
3年になったら、絶対甲子園の土を踏むと強く決意していた。

なのに、大会は中止になった。
俺はそのまま引退し、受験をして、何となく大学に進んだ。
そんな4年前のことをふと思い出す。

今日は第一志望の会社の面接。
小さいところだけど、怖いものなどない。
俺の最大の屈辱は、『高校野球の舞台に立つことすらできなかったこと』だから。

一対一の室内で、難しい顔のメガネの試験官に今までの経歴を聞かれる。
そして最後の質問。

「……それで君の好きなものは何かな?」

大学のときは正直何もしてなかったけど、俺の強みは――。

「高校のときに甲子園を目指していました。野球が今でも好きです」

面接官はため息をついた。

「君は失われた大会の子か」

何か気に障ることを言っただろうか。
すると、面接官はメガネを外した。

「うちの会社の面接を受けてくれてありがとう。今まで生きていてくれてありがとう。
大会には出られなかったかもしれないが、君は今、この場所でしっかりと『試合』しているよ」

「はい」

クールに答えたが、すっと目から涙が流れた。
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