第23話
文字数 487文字
「夏美……お願いがあるんだけど」
帰り支度をしていると、真剣な顔をした希に急に話し掛けられた。
「どうしたの」
「ついてきて欲しいところがある」
いつもの『寄り道して帰ろう』という軽いノリのお誘いとは違うようだった。
二つ返事で引き受けて黙ってついていくと、先を歩く希は駅前の花屋さんの前で立ち止まった。
「優斗くんにね、お花お供えしに行きたいんだ」
咄嗟の事に私はどう答えたらいいのか見当もつかず、ただ「わかった」とだけ返した。
すぐ後ろにいる優斗くんの表情を見るのが何となく怖くて振り向けなかった。
こぢんまりとした店内で希は暫くの間、迷っていたが白いカーネーションを一輪手に取った。
「それにするの」
「メンバーカラーが赤だったし…でも、お供えの花にカーネーションって変かな」
「そんなことありませんよ」
声をかけられて振り向くと、作業台でブーケを作っていた店員さんがこちらに微笑み掛けていた。
「白いカーネーションの花言葉ってなんだか知ってますか」
「いえ」
「"あなたへの愛は生きている"なんですよ」
視界の端で花を掴む指先が微かに震えたのを見た。
希は小さく息を吐いてから「これにします」と言った。