第1話

文字数 538文字

思えば当時の彼女はちょっと異常だった。
腰まである長い髪に毎日同じシュシュをつけ、ひなびた影を引き摺るようにして、ひとりで校庭を歩いていく。
小学校時代の彼女のことを思い出そうとすると、決まってそんな後ろ姿がぼんやりと頭に浮かぶのだった。

「上田先生、これ書いといてください。」
「あ。はい、分かりました。」
教頭に声をかけられ我に返る。今日の放課後は保護者会だ。職員室にも心なしか普段よりよそよそしい空気が流れている。上田もいつもは着ないスーツを着ているせいか、妙に肩が凝っていた。
保護者への配布物や会の段取りが書かれた資料の上に今回の参加者を記した名簿をのせて第二体育館まで持って行く。道中、早めに来ていた保護者に頭を下げながら足早に歩いていると、記憶の底に埋もれかけていたあの後ろ姿と出くわした。
反射的に足が止まる。が、止まった足音に気づいてその後ろ姿は振り向いた。
「もしかして、上田先生ですか?」
「お世話になっておりま…」
「やっぱり。うちの娘が担任の先生は私にそっくりだって言うものだから。あ、すみません失礼でしたか?」

明朗に話す彼女の表情や声色は、上田の記憶の中にあるそれとは別人のようだった。しかしながら、二十年余りの時を経た再会は、過去の薄暗い景色で彼女を包んだのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み