第1話

文字数 313文字

五年目の秋

山奥での伐採作業中

一本の杉を切ろうと構えた最中、

「それ、切るの?」

背後から確かに聞こえたその声に、

黙ってその場に座り込み、タバコに火をつけた

単独作業であり、自分の他に誰もいない

では、耳元で囁くように問いかけた者は何か

考えるのを止めた

振り向かなかった

道中、叫んで走り出したい衝動を抑えながら、

私は黙って下山した

今でもその判断は正しかったと思っている

あの時、返事をしていたら 振り向いていたら

もしかしたら

私の世界の見方は大きく変わり、

そして、二度と元には戻らなかったかもしれない

現在、木こりを辞め、アスファルトの上で働いている

二度と山には登らないことを確信して、

山に携わる全ての人に、この文を残したい



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