部屋

文字数 686文字

 朝八時に私はいつも帰宅する。家の中はいつも斜陽より暗い。こんな生活をするようになってから家のカーテンを一度も開けたことはない。小さな居間にあるテーブルに弁当が入ったコンビニの袋を投げ捨てる。最初は薄かった化粧が今では取れずに寝られないほどに塗りたくるようになった。いつの間にか化粧棚になってしまったテーブルの横には埃が被った絵の具や筆がある。私はそれをいつも意識して見ない。今から寝て起床するとすぐに夜になる。あぁ、なんて怠いんだ。居間に座ると猫がいつも私の手に頭をこすりつける。愛らしさはない。猫というものは犬と違い欲求を満たす時にしか人間に近づかない。猫は餌をやればいい。彼らはそれだけでここに満足して生活する。
 目覚まし時計が鳴る。今も部屋は暗い。私は起き上がり目覚まし時計になってしまった携帯をとる。今日は目覚めが良い。そのせいでたった一回のアラームで起きてしまった。精力のない体を動かしベッドの淵に座る。私の部屋は暗い。…………暗いのだ。居間に座りコンビニの弁当を開ける。具材の中身は覚えてしまった。食後にはいつも甘いチョコレートを食べる。いつもと変わらない。この生活を始めた時はテレビを見ながら食べていたがいつしか見ることはなくなった。何もせずに居座り続ける政治家の姿が自分に重なるようになったからだ。私は何も肝心なことをしていない。現状を打破すべきだとわかっているのに保身に走ってしまい、今を続けてしまう。三十代になった今ではもうそれしか道がないとまで思っている。
「…………ニガッ。………………カカオ八十」
変化を望みながら些細な変化を酷く嫌うようになった。
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