第1話

文字数 1,887文字

1.グループ名
 変奏曲

2.メンバー
カズヒサ  ギター/ボーカル
ショウタ  ベース
ダイチ   打楽器/効果音全般


3.特徴
「日常にある音」を曲中に使うことで有名なバンド。「自由でこそ音楽だ!」をモットーに掲げている。
 空き缶・空き瓶のぶつかる音、ボールペンのノック音、時計の秒針音、鍋の煮えたぎる音……などなど、日常生活で耳にする音を音楽に組み込んでいる。使われているペンなどの道具は全てメンバーの家で実際に使用中・使用済みのもので、「演奏のためには買わない。たまたま買ってあるものを使う」が信念らしい。
 そのルールはダイチが言い出したものだが、その考え方からも分かる通り、ダイチは特にケチなことで知られている。反対にショウタは浪費家で、目新しいエフェクターやデザインの気に入ったギターピックをすぐに買おうとする癖がある。当初は二人の中間地点を模索していたカズヒサも今では諦め、各自の金の用途には口出ししないことが通例となった。経費については今でもよく揉めているという。

 なお、ステージ演奏時の効果音はあらかじめ録音した音を流す他、舞台上で生音を使うこともある。時計の音をマイクで拡散してメトロノーム代わりにしたり、ボールペンをカチカチ言わせながらの演奏は実例がある。手が足りないときは観客の中から希望者を募り、演奏に参加させることも。文化祭のようなノリが楽しいと話題になっている。
 ステージ終了時には「自由でこそ音楽だ!」を観客と一緒に叫ぶのが恒例になっており、路上時代から続くこの瞬間を楽しみにしているファンも多い。

 グループ名の由来として、メンバーはこのように語っている。
「同じ人間に生まれても、育ちや生き方によって、その持ち味は大きく変わる。つまり人はアレンジ次第でいくらだって変われるのだ。まるで変奏曲のように」
同時に、かつて三人が影響を受けた曲にも由来していると言われている。詳しくは後述、5へ。

 現在は収益の一部で各地の学校や施設に楽器を贈る活動を行っているらしく、支持が集まるポイントの一つとなっている。



4.代表曲
「カウントダウン」
時計の秒針音を背景に入れ、急かされるように生きる毎日を歌った一曲。
一生の短さに気づき、「寝ている時間すらもったいない」年頃=青春をイメージしている。駆け抜けるような疾走感が特徴。

「布団が歌う応援歌」
応援団をイメージした、ごく普通の毎日を励ます歌。応援団の太鼓の代わりに吊るした布団を布団叩きで叩く音を使っている。
『フレー、フレー!』の合間に入る布団の音は、絶妙な脱力感が笑いを誘うと話題に。



5.これまでも歩み
 ダイチは子供の頃から音楽活動に憧れながらも、金銭的な問題で手が出せずにいた。経済的に苦しい家庭だったのだ。中学で吹奏楽や軽音に誘われたが全て辞退。楽器本体は買わなくとも、部費に加えて消耗品や維持費で相当な金がかかることを知っていたからである。
 高校に進学し、バンドを始めようとしているカズヒサとショウタに出会う。二人はドラムなどの打楽器パートが欲しいと考えており、ダイチをバンドに誘うが、ダイチはこれまでと同じ理由で断る。実家が裕福なショウタが援助を申し出るが、ダイチはこれを固辞した。
 その時、会話をたまたま聞いていた音楽教師が、三人に「台所用品による変奏曲」という吹奏楽曲の話をする。それは通常の楽器に加えて鍋やフライパンなどの台所用品を使って演奏する、遊び心に溢れた自由な一曲であった。

「音楽にお金がかかるのは事実。でも本来、音楽はもっと気軽に楽しめるものだったはず」

この教師の一言が、彼らの音楽観を大きく変える。
 それから三人は、まず中古のギターとベースを買うべくバイトをはじめ、足りない音は空き缶などを叩いて伴奏の足しにする演奏スタイルで練習を始める。とりあえず音楽の勉強になれば、と一曲作ってみると、思ったより独特な味のある曲が完成した。
「……これ、イケんじゃね?」
 その後楽器が揃っても、生活音による効果音は残されることになった。

 大学に入って路上ライブが本格化すると、その一風変わった演奏が話題になる。ライブ終了時にメンバーが叫ぶ「自由でこそ音楽だ!」はこの頃に始まった習慣であり、活動の幅が広がった現在でも続いている。このモットーはもちろん、高校時代に影響を受けた、あの曲を忘れないための言葉である。





※「台所用品による変奏曲」=ギリス作、実在の曲です。面白いので聞いてみてください。





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