第1話

文字数 1,086文字

ただいま我が家はリフォーム中。家は足場で囲まれ、大きな網で覆われている。(だから晴れても雨でも家の中は常に暗い)
家の中にいるとリフォームに関する音が耳に入ってくる。職人さんが足場を歩く音、工事の音、職人さん同士の話し声などなど。

外でiPhoneの着信音が響いている。しばらく鳴ってやがて止んだ。
「はい!――はい、はい。……はい。えっ? はい。あっ、はい。もう一回いいですか? ――はい。……失礼します」
壁越しに聞こえてくる職人さんの声。「はい」と言いながら電話に応じている。姿の見えない職人さんの声だけが私の耳に届く。

「はい」の多い職人さんの電話。
こうして文字にすると全部「はい」としか書けない。けれど、職人さんの電話の「はい」はそれぞれ異なっている。声音。声色。色んな音の「はい」がある。

文字を読むには2種類あって、目にした文字を頭の中で音に出して読む方法、もうひとつは文字を視覚として理解して読む方法がある。と、むかし速読に興味を持ったときに知った。

はい。ハイ。Hi. はい!はーい。はい~。はいっ。はい?……はい。――はい。 は、い。

文字を書くには、何種類の方法があるのだろう?「はい」の字面だけでは、そのニュアンスまで伝えるのは難しい……。

(ため息まじりに)はい。(怒気を孕んで)はい。(悲しんだ様子で)はい。(元気よく)はい。(イクラちゃんのように)は~い。
(そう言えば椎名林檎に「はいはい」という曲がある。割と好きな曲。ギラリズム、チラリズム。って、関係ないけど。関係なくないかもしれないけど)

「はい」に何かをつけ足さないと、読み手の方に届けることはできない?
――そんな疑問を持ったのは、こうして駄文を書き連ねるようになったことやTwitterをやるようになったのが影響しているのかもしれない。はい。

声に出すほうにも、それはある。
自分の意図や感情を示す点では書くのも話すのも同じかもしれないが、即座に相手に表すという目的が声に出すほうでは大きいと思う。
全然知らないけど、アクタースクールとかお笑い養成所の授業とかで「はい」の台詞のみで電話に応対する授業とかありそうな気がした。(もしかしたら以前にそういうコントとかを目にしていて、それでそう思っただけかもしれない)


夕方、インターホンが鳴ったので出る。本日の作業終了をお知らせする職人さんの声に私は応じる。
「はい!お疲れさまです。――はい、はい。……はい。えっ? はい。あっ、はい。あの、もう一度いいですか? ――はい。……失礼します。はい」

明日は雨の予報だから、職人さん達は来ないかもしれないらしい……はい。
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