特別な一日
文字数 2,250文字
「世の中には礼儀礼節に欠ける愚か者がたくさんいる。だが・・・例え世界広しといえど、師匠を待たせる弟子などいてたまるか!!」
カムイ無双流の正統継承者にして、素手においては世界最強とも謳われるダーシェ。そんな輝かしい肩書きに似合わず、彼女は野原でポツンと座り込んでいた。
「レムカのやつ、もう集合時間から2時間以上は経ってるっていうのに一体何をやっているんだ!」ーーー
遡ること数時間前、いつもの時間に修行場所に向かったダーシェであったが、そこに弟子のレムカの姿はなかった。
「まったく。また迷子か」
あと数分待てば間抜けな弟子がひょっこり現れる。そんな風に考えていたダーシェであったが、その予想はものの見事に外れ、現在にいたる。
「いくらなんでも遅すぎる!」
苛立ちが抑えられなくなってきたダーシェの視界に、偶然通りかかった男が映った。
「そこの君!ちょっといいか?」
「ん?どうしたんだい?」
「人を探していてな。茶色い長髪のバカっぽいやつ見なかったか?」
「バカっぽいかどうかは分からんけど・・・。元気そうな女の子ならあっちの街でみたよ」
そういうと男は少し離れた場所を指差した。
「何やら探し物をしてるみたいだったけど」
「そうか。ありがとう」ーーー
男に言われた街を訪れたダーシェは、その賑わいに思わず目を見張っていた。
「これは驚いた。修行ばかりで気付かなかったが、近くにこんなに栄えた街があるとはな」
通りにはいくつもの店が建ち並び、客が絶えず出入りしている。その中でもダーシェの心を奪ったのが立派な酒屋であった。ダーシェは日頃から酒を嗜んでおり、特に地域によって味わいが異なる地酒には目がないのだ。ついつい店先まで足を運んだダーシェに、酒屋の店主が声をかける。
「お客様!うちの酒はこの地域限定のものばかり!どれも飛びきりの上物よ!」
「くっ・・・。ぜひ味わってみたいものだが、今は私との約束をすっぽかしたバカを探してるんだ。見つけた時に買った酒を持っていたら説教しづらいからな。また今度来ることにしよう」
「そうかい残念だね。ところでその探してるバカってどんな人なんだい?」ーーー
「レムカのやつ酒屋に寄っていたなんてどうゆうつもりだ?」
酒場の店主からレムカの情報を得たダーシェは、レムカが店主に場所を尋ねたというレストランへ向かって歩いていた。
「まさかあいつ、修行が嫌になって暴飲暴食でもする気か?これはこっぴどく叱る必要がありそうだな」
すっかり暗くなった通りを歩きながら、そんな独り言を呟く。それからしばらくすると、ダーシェは目的のレストランの前に到着していた。
「やっと着いたか。さぁ、覚悟しろよ!」
レストランの入店とは思えないセリフを吐きながら、ダーシェはレストランの扉を勢いよく開ける。多くの人で賑わう店内。しかし、ダーシェの目は一瞬で探し続けた人物を捉えた。
「おいレムカ!こんなところで何やって」
「あ!師匠!早く早く!こっちこっち!」
想像していたものとは真逆の反応に戸惑いつつ、ダーシェはレムカに招かれるまま席に着く。
「師匠ったら遅刻ですよ!可愛い弟子を待たせるだなんて師匠失格です!」
「ん?何を言っている?修行に来なかったのはお前の方だろ?」
「へ?今日は修行休みにして、夜ご飯街のレストランで食べようって先週約束しましたよね?」
「あ」ーーー
「あーはははっ!師匠面白すぎますって!」
「もうやめないか!いつまで笑っている!」
ダーシェから一連の流れを聞いたレムカは、赤面しながら自身に不満を言う師を大笑いしていた。
「あははっ!ちょっと笑いすぎて疲れちゃいました。まぁとにかく!無事に一緒にご飯食べれて嬉しいです!」
「まったく・・・。ところでどうして今日はこんなレストランに呼び出したんだ?」
「あ!そうでした!これどうぞ!」
そう言うとレムカは椅子の脇に置いていた包みをダーシェに手渡した。
「これは!あの店の酒か!」
「はい!師匠ならきっと喜ぶと思って!」
「もちろんだ!だが、なぜこれを私に?」
不思議そうに尋ねる師に、レムカは呆れながら言葉を続ける。
「はぁ、師匠ったら・・・やっぱり忘れてるんですね、今日が何の日か」
「今日?まったく覚えがないが・・・」
まるで見当がつかない様子のダーシェに、レムカは思わず笑ってしまう。
「もう!今日は師匠の誕生日じゃないですかっ!」
ーーー
たくさんの美味しい料理を平らげた二人は、満足気にレストランを後にした。
「いやー!あんなに美味しい料理久しぶりに食べたなぁ!」
「そうだな。これで明日からの修行にも身が入るというものだ」
「げ、まさか明日もいつも通りの早起きですか・・・?」
「当然だ。今日修行しなかった分、明日は念入りにやらないとな」
「うー。頑張らないとなぁ」
レムカはぐーっと伸びをすると、思い出したように話しだした。
「そういえば師匠、約束忘れたり自分の誕生日忘れたり、ちょっと物忘れが激しくなってきてません?やっぱり師匠ももうおばさん・・・あっ」
「おいレムカ。今なんと言った?」
ダーシェの身体がピタッと制止する。
「あ、えっと違くて、口が滑ったっていうか、あー、いや、本当は思ってないんですけど」
「レムカぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁ!!」
ダーシェはレムカの言い訳など気にも止めず、レムカをはるか彼方へと蹴り飛ばした。
「ふぅ。この程度で吹き飛ぶとはレムカもまだまだ修行が足りないな」
再び一人きりになったダーシェはレムカから渡された包みを大事そうに見つめると、フッと笑みを浮かべた。
「ありがとな、レムカ」
カムイ無双流の正統継承者にして、素手においては世界最強とも謳われるダーシェ。そんな輝かしい肩書きに似合わず、彼女は野原でポツンと座り込んでいた。
「レムカのやつ、もう集合時間から2時間以上は経ってるっていうのに一体何をやっているんだ!」ーーー
遡ること数時間前、いつもの時間に修行場所に向かったダーシェであったが、そこに弟子のレムカの姿はなかった。
「まったく。また迷子か」
あと数分待てば間抜けな弟子がひょっこり現れる。そんな風に考えていたダーシェであったが、その予想はものの見事に外れ、現在にいたる。
「いくらなんでも遅すぎる!」
苛立ちが抑えられなくなってきたダーシェの視界に、偶然通りかかった男が映った。
「そこの君!ちょっといいか?」
「ん?どうしたんだい?」
「人を探していてな。茶色い長髪のバカっぽいやつ見なかったか?」
「バカっぽいかどうかは分からんけど・・・。元気そうな女の子ならあっちの街でみたよ」
そういうと男は少し離れた場所を指差した。
「何やら探し物をしてるみたいだったけど」
「そうか。ありがとう」ーーー
男に言われた街を訪れたダーシェは、その賑わいに思わず目を見張っていた。
「これは驚いた。修行ばかりで気付かなかったが、近くにこんなに栄えた街があるとはな」
通りにはいくつもの店が建ち並び、客が絶えず出入りしている。その中でもダーシェの心を奪ったのが立派な酒屋であった。ダーシェは日頃から酒を嗜んでおり、特に地域によって味わいが異なる地酒には目がないのだ。ついつい店先まで足を運んだダーシェに、酒屋の店主が声をかける。
「お客様!うちの酒はこの地域限定のものばかり!どれも飛びきりの上物よ!」
「くっ・・・。ぜひ味わってみたいものだが、今は私との約束をすっぽかしたバカを探してるんだ。見つけた時に買った酒を持っていたら説教しづらいからな。また今度来ることにしよう」
「そうかい残念だね。ところでその探してるバカってどんな人なんだい?」ーーー
「レムカのやつ酒屋に寄っていたなんてどうゆうつもりだ?」
酒場の店主からレムカの情報を得たダーシェは、レムカが店主に場所を尋ねたというレストランへ向かって歩いていた。
「まさかあいつ、修行が嫌になって暴飲暴食でもする気か?これはこっぴどく叱る必要がありそうだな」
すっかり暗くなった通りを歩きながら、そんな独り言を呟く。それからしばらくすると、ダーシェは目的のレストランの前に到着していた。
「やっと着いたか。さぁ、覚悟しろよ!」
レストランの入店とは思えないセリフを吐きながら、ダーシェはレストランの扉を勢いよく開ける。多くの人で賑わう店内。しかし、ダーシェの目は一瞬で探し続けた人物を捉えた。
「おいレムカ!こんなところで何やって」
「あ!師匠!早く早く!こっちこっち!」
想像していたものとは真逆の反応に戸惑いつつ、ダーシェはレムカに招かれるまま席に着く。
「師匠ったら遅刻ですよ!可愛い弟子を待たせるだなんて師匠失格です!」
「ん?何を言っている?修行に来なかったのはお前の方だろ?」
「へ?今日は修行休みにして、夜ご飯街のレストランで食べようって先週約束しましたよね?」
「あ」ーーー
「あーはははっ!師匠面白すぎますって!」
「もうやめないか!いつまで笑っている!」
ダーシェから一連の流れを聞いたレムカは、赤面しながら自身に不満を言う師を大笑いしていた。
「あははっ!ちょっと笑いすぎて疲れちゃいました。まぁとにかく!無事に一緒にご飯食べれて嬉しいです!」
「まったく・・・。ところでどうして今日はこんなレストランに呼び出したんだ?」
「あ!そうでした!これどうぞ!」
そう言うとレムカは椅子の脇に置いていた包みをダーシェに手渡した。
「これは!あの店の酒か!」
「はい!師匠ならきっと喜ぶと思って!」
「もちろんだ!だが、なぜこれを私に?」
不思議そうに尋ねる師に、レムカは呆れながら言葉を続ける。
「はぁ、師匠ったら・・・やっぱり忘れてるんですね、今日が何の日か」
「今日?まったく覚えがないが・・・」
まるで見当がつかない様子のダーシェに、レムカは思わず笑ってしまう。
「もう!今日は師匠の誕生日じゃないですかっ!」
ーーー
たくさんの美味しい料理を平らげた二人は、満足気にレストランを後にした。
「いやー!あんなに美味しい料理久しぶりに食べたなぁ!」
「そうだな。これで明日からの修行にも身が入るというものだ」
「げ、まさか明日もいつも通りの早起きですか・・・?」
「当然だ。今日修行しなかった分、明日は念入りにやらないとな」
「うー。頑張らないとなぁ」
レムカはぐーっと伸びをすると、思い出したように話しだした。
「そういえば師匠、約束忘れたり自分の誕生日忘れたり、ちょっと物忘れが激しくなってきてません?やっぱり師匠ももうおばさん・・・あっ」
「おいレムカ。今なんと言った?」
ダーシェの身体がピタッと制止する。
「あ、えっと違くて、口が滑ったっていうか、あー、いや、本当は思ってないんですけど」
「レムカぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁ!!」
ダーシェはレムカの言い訳など気にも止めず、レムカをはるか彼方へと蹴り飛ばした。
「ふぅ。この程度で吹き飛ぶとはレムカもまだまだ修行が足りないな」
再び一人きりになったダーシェはレムカから渡された包みを大事そうに見つめると、フッと笑みを浮かべた。
「ありがとな、レムカ」