またねの意味

文字数 631文字

 今日、先輩は別れ際、賑わう駅の改札前でいつもの低い声のまま言った。

「じゃ、またね」

 だから、私も言った。

「はい、ま、また!」

 先輩と同じ意味のつもりで言ってから、パスケースを取り出し改札を潜った。

 そして、私が改札を通って少し進んだ後、先輩がいる方へちらりと振り返ってみるともう先輩の姿は消えていた。

 だから、私はそのままホームへ駆け下りた。



 そして私は今、真夜中の布団の中にいる。
 自分の部屋でひとり、今日のあの瞬間を繰り返し考える。

 二十五時を迎えようとする暗闇で、ただただ同じ瞬間を脳内で繰り返してはいくつもの気持ちになって忙しい。

 先輩の顔を思い浮かべながら、私の頭の中は先輩の言葉でぐるぐるで眠れやしない。



 先輩のあの言葉は、どの「またね」だろうかと。
 私の心は不安で疑問で期待でわけがわからない。

 とりあえず言っただけのまたね?

 サヨナラの意味のまたね?

 いや、また会おうのまたねでしょ。

 でも、ただ会うだけじゃなくて、またデートしてねのまたねでいてほしい。

 いやいや、また、とりあえず遊ぼのまたねかな?

 友達に言うまたね……かも。

 うーん。表面上のまたねではないよね?

 私がまたデートに誘ってもいい……またねでいい?

 好き……のまたねだったりしないかな……?


 真夜中の私の恋の時間は、同じ言葉でループする。

 いつ終わるのかわからないくらいたった一言を繰り返しては、喜び悲しみながら不安と期待を胸に抱き、気がつけば忙しい恋が始まる朝を迎えるのだ。

 
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