憎しみの中の子、田中にく子編

文字数 2,254文字

作家の爪垢 ~憎しみの中の子、田中にく子編~

二月二十七日のことでございます。

作家の神は今日も

広々とした公園をゆっくりと歩いておりました

いい匂いのする花の匂いの中をゆっくりと歩いておりました。

桃色や白の美しい花束の中にある白の机と椅子にお座りになると

周りに頭脳明晰な目鼻立ちの整った青年達が白い歯を輝かせながら

笑顔で集まってきます



今日も作家の神は優雅にいい匂いのする花の中で

水筒に入れてきた高価なお茶をのんで執筆しています



それはお昼になる前でしょうか、作家の神は手のひらにのるくらいの水晶を

鞄のなかから取り出してとある作家の顔を見ます



6畳1間くらいの家に住んで部屋はめちゃめちゃ。

服もぐちゃぐちゃに床にちらばった薄い桃色の安価な

服をきた女が映っておりました



スマホをいじって爪をかじってイライラしているみすぼらしい女です

顔は貧相で裕福な日本を映し出したはずなのに

まるで地獄の中であがいているように水晶はどす黒く渦をまいています

そのみすぼらしい女は田中にく子ともうします

いつも他人の絵を盗み、他人の不幸を願っている作家でございます

ただこの田中にく子という女、同情してしまうほどのかわいそうな育ちで

裕福な日本で酷い世の中をひとりぼっちで渡ってきました

スマホをいじっているのも、友達と自分で呼んでいる人から

返信がなくアプリを消してしまおうかまよっているからでございます



と、いうのも才能がなく、友達のことをネタに書いてしまって

たいそう裏で悪口を言われ距離を置かれているからであります。

しかし、本人は頭がないためどうして其れがいけないことなのか

わかりませんでした。

自業自得といいましょうか、

しかしこの田中にく子にもどうじょうするところがあり

かわいそうな女なのであることだけは作家の神はわかっていたのです



みすぼらしく汚い容姿のわりに、高望みした男ばかりを求め

立場をわきまえずモテる女をひがんでおりました。

男に相手にされないのは他人のせいだと、モテる女を卑下している

クズでございました。



他にもモテない女はたくさんいましたが類をよぶといいましょうか

モテない女どもで集まって合コンやバーというものに励んだり、

男を貪ることに

必死で渦の中でもがいておりました

しかし心も汚い田中にく子は売りの若さもなくなりとうとう

男から相手にされなくなってしまい、ついに二月に

左腕をカッターで深く切ってしまったのでありました



作家の神はその有様を水晶ごしにごらんになって、

ご自身のキラキラとした赤いネイルを塗った長くて

お美しい爪をやすりで削りました



爪の垢は水晶にかかります



垢は水晶の中にいる田中にく子の泣き叫んでいる「「よよよ・・・」と

泣き叫んでいる彼女の口の中にキラキラとはいっていきました



田中にく子は白い天井からなにか降ってきて自分の口の中に

はいってくるのがわかりました



田中にく子の部屋は作家の爪垢であっという間に砂の山になりました



この時、にく子は爪垢を口にしたことで

自分の中にいろいろなアイデアが浮かんできました



にく子は作家の神の爪垢を煎じたように爪の垢を「喰った」のです



「書けるぞ!描けるぞ!このなんだかわからない粉を飲んだら

かけるようになるぞ!」



さっそくペンをにぎり原稿を書き始めました

もとより絵を描いたりするのが好きな田中にく子でしたから

描くのは得意でございました。



しかし描くのは大変で何日、何十日もかかりました

見事、本は完成し売れ行きも好調、売れ始めたのでした

「このまま書いていればモテるに違いない」

「やった、やったぞ!」

と喜びました。

しかし、その粉の話を周りの作家に自慢すると他の作家に

それは「作家の神の爪垢というものよ」と言われました

「少し頂戴」と瓶に詰めてほしいと作家仲間はいいました

田中にく子は爪垢のおかげで書けていると知って

あわてて断りました

「そんなことをしたらなくなってしまったら、私は描けなくなって

しまうじゃないか」

田中にく子は家に帰って部屋に鍵をかけました



作家仲間は爪垢が欲しくてたまりません。

にく子の部屋のチャイムをならしては行くようになりました。

「こら!作家の神の爪垢は私のものだ!誰が爪垢をあげるといった!?」

そういうと部屋中の残りすくない爪垢を集めて瓶に詰めてから

こぶしを握って天井にむかって叫びました

「作家の神め!もっとよこせおまえの爪垢をもっとよこせ!」

そう天にむかって文句を垂れました



作家の神は水晶に向かって息を吹きかけました

フゥーッ

するといくつもの瓶の蓋がとたんにあいて爪の垢は

窓も開いていないのに渦となって舞い上がり泥になり

うんこになりました

田中にく子は水晶の中でうんこを喰いました

気持ち悪くても泣きながらなんにもならないうんこを喰いました

みすぼらしい女はうんこまみれになりながら「よよよ・・」と泣きました



作家の神が最後に見た田中にく子の顔は憎しみの渦を泥のようにかぶったかのようにわなわなと泣いて悔しがってから悲しい顔をしておりました





作家の神は公園で優雅なひと時を過ごしていましたが、

水晶の中で泣いて睨んでいる醜い女を拝見なさって憐れんだような顔をなさりました。

自分ばかりの自己中さに田中にく子の浅ましい心に心を痛めたのでしょう



作家の神は水晶を鞄にしまうと周りにいる目鼻立ちの整った青年たちが

桃色や白のいい匂いのする花を摘んでにこにことしていらっしゃいます



二月二十七日 

作家の神はいい匂いのする公園をゆっくりとお歩きになりました

太陽は真上になり雲の隙間から暖かな光が作家の神と花々と青年たちに

降り注ぎます
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