前編

文字数 1,370文字

学校中に鐘が鳴り響き、授業の終わりを告げる。
大きく背伸びをしていると、前の席の葵が振り返り、ニヤリと笑った。

「俺、今日は京子と帰るから。」

「え?あ、ああ、そう。」

京子って誰だ?

コイツが呼び捨てにするような彼女、いたっけ?
葵は教科書やノートをカバンに片づけソワソワしている。
やがてホームルームが終わると、一目散に教室を飛び出していった。

「なんか喜んでるなー」

チッ、わかりやすい奴め。
なんだかうらやましいような、妬ましいような、彼女いない歴ン年の俺。
ガキの時は良かった。
好きだの嫁にするだの、平気で言えたからな。
で、寂しい俺は丁度掃除当番だったので、窓ふきを友人と始める。

「なー鴇よ、今日は葵と帰らねーの?」

「ああ、あいつ女と帰るんだってさ。」

「女って……お前、いいの?」

いいの?

って……それ、どういう意味?

「ちょっと鴇!どいてよ掃くんだから。」

「ああ、はいはい、ごめん」

なんだかんだと掃除を終わり、彼女と帰る友人を横目に1人寂しく帰るとする。
だいたい俺って、そんなに顔も不細工じゃないと思うのに、なんでモテないんだろうか。
運動神経抜群って程ではないが、体育も普通だし頭もほどほど悪くない。
おっさん顔、中年体型の田中でさえ彼女がいるのに、中肉中背普通の俺に彼女は寄りつかない。

神様は不公平だ。くすん

校門に向かう途中、クラブ活動に燃えてる奴らに引っかかり、体育館に引きずり込まれて勧誘を受けたがきっぱり断った。
俺は柔道とかレスリングとか苦手だ。
汗くさい男同士で、なんでつかみ合いしないとイカンのだ。
柔道部の寝技でキャーとか言われるのも心外だ。
蓮池達には同情する。
帰宅部で、用の済んだ学校からはさっさと帰るに限る。
1人だと長く感じる道のりを、ブラブラ帰っていると公園から子供達の声が元気に聞こえてきた。

「ガキはいいなあ、悩みが無くて。」

ちょっとため息
しかし良く聞くとそれはほのぼのした声ではなく、なんと子供達が誰かを囲んで一気コールをしているのだ。

「一気!一気!」

おいおい、昼真っからどこの酔っぱらいだよ、ガキに変なこと教えンじゃネエよ。
垣根を覗き込むと、公園のベンチにいたのは……
ガキに囲まれ、2リットルのコーラをがぶ飲みしている葵の姿だった。

「はあ?ちょっと葵!なにやってんだよお前!」

んぐっ、んぐっ、んぐっ、「ぷはあーーーーっ」

「わー兄ちゃんスゴイ!」

パチパチとガキどもが一斉に拍手。

「アフォかっ!散れ!ガキども散れ!」

カバンを振ると、ガキ達はキャーッと散って行く。

「あーくそう、コーラは何で酔わないんだ!げっふう」

「コーラで酔うか馬鹿。お前さー、京子って奴と帰るんじゃなかった?」

「ここまで帰った。」

「ここまでって、半分もねージャン。ケンカ?」

葵の目から、ブワッと涙が浮かぶ。そしてたまらず抱きついてきた。

「と~き~~~」

「な、なんだよ、なにが……」

カシャ!カシャカシャ!

「へ?」

「きゃあ!やったわ!これで今度のマンガ、資料はバッチリね!」

「あ、あの……」

「ごめんねー!ありがと!」

何年生なのか、デジカメ片手に3人はしゃいでパアッと走って逃げた。

「えーっと、あの中の1人が京子ちゃん?」

「うう、そう。」

葵が俺のシャツをズボンから引き出し、涙を拭いた。
一体ここまでの間になにがあったのか俺は葵のカバンを持ち、帰りながら話しを聞くことになった。
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