第1話

文字数 656文字

今日も、お疲れさまです。
外は、寒かったでしょう?
今日の荷物は重そうですね。
少しの間ですが、わたしに身を預けて、あたたかな時の流れをお過ごしください。
わたしが全てを受け止めます。

いつもこの時間に感じるあなたの重力は、しっかりずっしり、かなり強い。
朝から夜まで頭も身体も働かせて、ひとのために一生懸命だった証ですね。
でもたまには自分のために、わがままになってもいいんですよ。
好きな音楽を聴いて身体を揺らすとか。
テレビで紹介された、面白そうな漫画を読むとか。
いつも我慢している、こってり豚骨のラーメンを食べるとか。あ、それはここでは出来ませんけどね。
とにかく、今は、あなたひとりの時間です。
あなたの隣に座ったひと、わたしは初めて見かけたひとですが、ほら、スマホで漫才観てる。
まあそれでも、ここでプレゼン用の資料を読みたいというのなら、構いませんよ。
仕事熱心なあなたも、受け止めます。

ところでわたしの仕事は、あなたを支えて運ぶことだけじゃありません。
あなたが一日かけて背負ってきた疲れを、わたしが全て吸い取ってやろうと、思っています。
そのくらいの心意気で、じわじわと、ぬくもりをお伝えしています。
って、聞いてますか?
ごめんなさい。お疲れのところ、べらべらと喋りすぎました。
この揺れ、心地よくてたちまち眠りに誘われますよね。
わたしもこの揺れには日々感心しています。

とは言え、乗り過ごしちゃだめですよ。
電車の座席であるわたしには、あなたを起こす力はありません。
それでも楽しみにしています、明日もあなたに座ってもらえることを。

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