第2話

文字数 1,375文字

私と愛梨(あいり)がこの世界に呼ばれたのか、迷い込んだのかはわからないが
落っこちたのは、約半年前

私は元いた世界で「日本」という極東の島国のしがないOLだった。

落ちていく最中、
体中の細胞が書き換えられたような感覚を覚え

ついたこちらが「異世界」であることは、理屈ではなく気付いた。

一緒に草っぱらに投げ出されていた愛梨も、
元の世界では、大体私と同じような経歴で
私たちに面識はなかった。

目に見えて違う点といえば、私に比べて愛梨の方が美人というところか。

「なんでこんなことになったんだろ」

私がごく当たり前の疑問を口にすると愛梨は

「そうだ!こういった場合私たちどちらかが『聖女』なのよ!」
「聖女・・・?」
「そう!この世界を救うために召喚されたのよ!
なんでー!イケメンの騎士が現れて
『あなたをお待ちしていました』とか言って
ひざまずくんじゃないの?!」

愛梨はこういう状況をマンガで読んだことあるー!
思ってたのと違うー!と大いに憤慨していた

私もこんな世界に来てしまった時点で、
『絵空事』という概念は捨てていたので
そんなもんかいなと思った。

元の世界に帰れるのか?とか
帰る方法はあるのか?
といった方向の模索は、いっさいせず、

この世界で自分を『たいへん価値ある存在』と信じて疑わない
愛梨のたくましさに、私は学ぶべきものを覚えたが
とりあえず人里をもとめて歩き出し、30分もたたないうちに

「もうイヤー!帰りたいー!足痛いー!」

ハラへったとか、お風呂にはいりたいとか
ゴネ出したので
さっき思ったことを撤回した。

この世界の太陽が沈みかけた頃、
運よく私たちは、旅の商人の一行に拾われた、
仕事柄からか、私たちが「異世界」から来たと話しても

「まあ、そんなこともあるだろな」

で納得してくれたのはありがたかった

こちらの人たちと、最初から普通に言葉が通じ、会話できたことに
違和感はなかった、なぜかと問われても 
知らんがな

商人は、この王国の商都として、栄えている第二都市で
手広い商売をしている、大店の二代目で、名をカルロスと名乗った

フルネームは聞いたけど、ピカソか寿限無なみに長かったので忘れた。

今回の旅は商売が主目的ではなく、
病弱な幼い娘の健康祈願と、使用人たちの慰安もかねて
三十三か所の聖地を巡っているのだという。

お遍路さんか

愛梨が自分の「力」を発現させたのは、
その夜の野営でだった
とつぜん愛梨の手のひらから光があふれ出し 
ミッドナイトブルーの闇を明るく照らした

しかもその時、急な発熱と嘔吐で苦しみ出した、カルロス氏の愛娘リリアちゃんに
その光を当て治すと言い放った「聖女」の光は万能なの!と 

「あたしが治せるかも!」
「ちょっ!やめなよ!もし失敗したらシャレになんないよ?」
「だーいじょーうぶ!」
「私知らないからね」
「いいから、その子連れてきて!」

はたして愛梨の光は、リリアちゃんをたちまち、快癒させてしまった

「聖女様だ・・・!」
「異世界から渡られた聖女様だ!」

愛梨の美しい容姿も相まって、彼女はたちまち聖女認定された。

「やっぱりあたしが聖女だったみたい、悪いわねぇ」

そう言って、私にドヤ顔をむけた愛梨に

「お願い!私を見捨てないで!何でもするから!」

と、私はとっさにすがりついた

「いいけど~?」
愛梨の笑顔は、このうえもない優越感に歪んでいた

実を言うと愛梨が「力」をあらわす前に、私の「力」は発現していたのだ
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