本棚迷宮へようこそ

文字数 1,585文字

 


 いらっしゃいませ。

 本棚迷宮へ、ようこそおいで下さいました。

 ああ、ブログを間違えてはいませんよ。

 この空間は、庄内多季物語工房の中にある一角です。(『美月流☆最幸の人生の育て方』〈自己啓発〉参照)

 ただ、今宵は、金と銀に分かたれた双子の月が輝いていますので、時空に歪(ひず)みが発生しているのです。

 どうやらあなたは、その歪みに迷い込んでしまわれたようですね。

 それでは、せっかくですので、今暫く、お付き合い願えますでしょうか。

 どのみち、銀の月が金の月に重なり合うまでは、この迷宮から出られないようになっていますので。

 ああ、申し遅れました。私は、本棚迷宮の管理人、桜葉影人(えいと)と申します。

 以後、お見知り置きを。

 さて、あなたには、十数年振りに、ふと懐かしく思い出したことがきっかけで、本棚から手に取った本を、つい夢中になって読み耽った経験は、おありでしょうか。

 もしおありでしたら、その時に、不思議な感覚に包まれたことはないでしょうか?

 以前、確かに一度は読んだことがある筈なのに、その時とは物語の印象が、まるで違うと感じたことはありませんか?

 あなたは、もしかしたら、全く別の本の内容と、取り違えていたのかも知れないとさえ、思い始める。

 けれど、その本のタイトルと、そこから立ち上ってくる感動の残り香は、その記憶が、確かにその本にまつわるものだったことを、物語ってくれている。

 これは一体、何が起きていることになるのでしょうか。

 あなたが以前よりも大人になったから、最初に読んだ時は理解出来なかった登場人物達の機微が感じ取れるようになり、それで違う物語のように感じたのでしょうか。

 それとも、年数が経過する間に、本のページが密かに組み替えられ、入口が出口に、赤が黒に、午後二時が午前二時に、男が女に変化したことによって、違う物語のように感じられたのでしょうか。

 どちらの可能性も、大いに有り得ることです。

 ですから、そういった意味では、あなたの世界も、物語の世界も、絶えず変化を繰り返しています。

 そして、そうであるからこそ、一度目の読書体験と、二度目の読書体験は、似て非なるものになってくるのです。

 これからも、あらゆる世界観が変化し続ける限り、同じ本を再読したとしても、二度と同じ瞬間が現れることはないでしょう。

 それくらい、あなたの今のこの瞬間のこの体験は、何物にも変えがたい、非常に尊いものなのです。

 今後も、あなたにしか訪れない瞬間を、大切にして欲しいと思います。

 …‥そろそろ、銀の月が金の月に、重なり合う刻限がやって参りました。

 そうなったら、時空の歪みは正され、あなたはこの迷宮から抜け出ることが可能になります。

 勿論、このままこの異空間に留まることも、普段通りの日常生活に戻っていくことも、どちらでも選べます。

 ただ、どちらを選ぶにしろ、あなたの世界観は、本棚迷宮に迷い込んでいらした時と比べると、微妙に違うものになっている筈です。

 ですから、どちらを選んだところで、本来は、さほど変わりはないのです。

 …‥今、銀の月が金の月に、完全に重なり合いました。

 あなたにお逢い出来ました喜びを胸に秘めつつ、本棚迷宮の管理人である私は、お暇(いとま)しなければなりません。

 それでは、今宵も最後までお付き合い下さいまして、誠にありがとうございました。

 また機会がありましたら、お逢い致しましょう。


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