ビアガーデン feat. OJ(女上司)
文字数 1,999文字
1000円にしようか2000円にしようか。駅構内の運賃も記載されている乗り換え案内を見ながら俺は考える。今から向かう目的地へは片道240円で行ける。なら1000円で事足りるがこれから先のことも考えるとこまめに1000円ずつするのも面倒くさいので一気に2000円にしてしまおう。
そんなことを考え、そして決断した俺は持っていた交通系のICカードに2000円を課金した。そしてスマホとにらめっこしている待ち人の元へと帰る。
「お待たせしました。行きましょう」
そんな風に声を掛けると
「うん。それより見てこれ。ホタテ、超美味しそうじゃない?」
と言いながらスマホの画面を見せてくる。彼女は上司の坂崎 さんだ。仕事の上がり時間が同じになった帰り道、電車に揺られていると坂崎さんがおもむろに
「今日も暑かったね」
と切り出してきたので
「そうっすね。外、炎天下ですね」
と返すと
「夏は好きだけどここまで暑いとイヤになるよね」
と続き
「ですね」
と返事をすると
「でもこれだけ暑いと飲みたくなるもの何? 」
と唐突な謎かけが始まり
「…ビールですか?」
と回答すると
「どうせなら今しか飲めないフォーマットで飲みたいよね」
とさらに問答は続き
「え?」
とキョトンとしていると
「ビア?」
と大きな瞳をこちらに向けながら尋ねてくるので
「ビア?」
と俺が戸惑っていると
「ビア…?の後には何が続く?ほら、say?」
と耳元に手をあてて突如コール&レスポンスを要求されたので
「ビア…ガーデン、ビアガーデンですか」
とアンサーすると
「そう、ビアガーデン!前から気になってたところがあるんだけど今から行かない?」
と今日一番の笑顔で誘われたので俺は今こうしてここにいるのだ(そして彼女が行きたいビアガーデンの場所が俺の通勤定期区間外だったのでICに課金をすることになったのだ)。
今熱心に彼女が俺に見せているのはそのビアガーデンのSNSの画像達だ。
「海老も美味しそうだよ」
スマホの中の小さな画面に目を光らせている坂崎さんは仕事中にまとっているシリアスな鎧をすっかり外した普通の女性に戻っている。
上司といっても年齢は2コしか変わらない俺と坂崎さんは(俺が27で彼女は29だ)帰り道の方面が同じということもあって今日のように一緒に帰ることがあり、さらに俺達はどちらもお酒が大好き(俺は焼酎、彼女はビールと一番好きなものにこそ差異があるが)なのでたまに飲みに行くという間柄だ。
「じゃあ、行きましょう」
いつまでもここで立ち止まっているわけにも行かないので俺達は歩き出してICカードをかざして改札を抜けて駅のホームに降りて電車を待つ。電車は10分後だ。
「とりあえずビールとお肉と海老を頼んで…あ、エリンギもあるよ、ほら」
相変わらず画面を見ながら坂崎さんは喋り続けている。心なしかいつもより声が上ずっている。
「黒ビールもある!やった!」
もうすっかりその気になっている。しかしその熱につられて俺も徐々に気分はビアガーデンモードになっていく。
「っていうか…」
ふとあることが気になった俺は口を開く
「何?」
視線をスマホに固定したまま坂崎さんは言う
「結構人気そうですけど空いてますかね?」
すると坂崎さんはやっと視線をスマホから外して俺を捉えながら
「えー大丈夫でしょ。平日にビアガーデン行く人なんていないよ」
と言う。その言葉を聞いた俺は自分と彼女を交互に指差して
「いや、俺らみたいなのがいっぱいいるかもしれないですよ」
と言う。その言葉を聞いた坂崎さんは少し顔を曇らせて
「うーん、そうかなあ…。じゃあ確認してみようかな」
と言って再び視線を画面に戻す。
「えーと、予約は…当日は電話での問い合わせしか受付てないみたい。1回電話してみるね」
そう言って素早く画面をタッチした彼女はスマホを耳に当てて宙を見つめている。
「…」
しかし待てど暮らせど電話が繋がる気配はない。
「繋がらない、忙しいのかな?」
そんな一人言を横目に俺もスマホでそのビアガーデンのHPを開いて確認していく。
そして衝撃的な一文を目にする。
「坂崎さん」
「何?」
スマホを耳に当てている彼女に俺はその一文を見せる
「水曜定休って書いてありますよ」
「今日何曜日だっけ?」
「…水曜日です」
「えー最悪」
と言って彼女は両手をだらんと下げて目を閉じ顔を上向けて下唇を突き出してふてくされている。
「どうします?」
俺の問いかけにも彼女はそのままの体勢で「う~」と唸ったまま動かない。
「じゃあ、焼肉でも行きます?」
「焼肉!?」
いつもより1オクターブ高い声で俺の言葉に首から上だけで反応して素早くこちらを向いた坂崎さんは
「行こう行こう」
と目をキラキラさせながら身体全体をこちらに向ける。普段の仕事中の真面目モードと仕事外での感情や表情の豊かさのギャップ。
俺はそんな坂崎さんのことが大好きです。
そんなことを考え、そして決断した俺は持っていた交通系のICカードに2000円を課金した。そしてスマホとにらめっこしている待ち人の元へと帰る。
「お待たせしました。行きましょう」
そんな風に声を掛けると
「うん。それより見てこれ。ホタテ、超美味しそうじゃない?」
と言いながらスマホの画面を見せてくる。彼女は上司の
「今日も暑かったね」
と切り出してきたので
「そうっすね。外、炎天下ですね」
と返すと
「夏は好きだけどここまで暑いとイヤになるよね」
と続き
「ですね」
と返事をすると
「でもこれだけ暑いと飲みたくなるもの
と唐突な謎かけが始まり
「…ビールですか?」
と回答すると
「どうせなら今しか飲めないフォーマットで飲みたいよね」
とさらに問答は続き
「え?」
とキョトンとしていると
「ビア?」
と大きな瞳をこちらに向けながら尋ねてくるので
「ビア?」
と俺が戸惑っていると
「ビア…?の後には何が続く?ほら、say?」
と耳元に手をあてて突如コール&レスポンスを要求されたので
「ビア…ガーデン、ビアガーデンですか」
とアンサーすると
「そう、ビアガーデン!前から気になってたところがあるんだけど今から行かない?」
と今日一番の笑顔で誘われたので俺は今こうしてここにいるのだ(そして彼女が行きたいビアガーデンの場所が俺の通勤定期区間外だったのでICに課金をすることになったのだ)。
今熱心に彼女が俺に見せているのはそのビアガーデンのSNSの画像達だ。
「海老も美味しそうだよ」
スマホの中の小さな画面に目を光らせている坂崎さんは仕事中にまとっているシリアスな鎧をすっかり外した普通の女性に戻っている。
上司といっても年齢は2コしか変わらない俺と坂崎さんは(俺が27で彼女は29だ)帰り道の方面が同じということもあって今日のように一緒に帰ることがあり、さらに俺達はどちらもお酒が大好き(俺は焼酎、彼女はビールと一番好きなものにこそ差異があるが)なのでたまに飲みに行くという間柄だ。
「じゃあ、行きましょう」
いつまでもここで立ち止まっているわけにも行かないので俺達は歩き出してICカードをかざして改札を抜けて駅のホームに降りて電車を待つ。電車は10分後だ。
「とりあえずビールとお肉と海老を頼んで…あ、エリンギもあるよ、ほら」
相変わらず画面を見ながら坂崎さんは喋り続けている。心なしかいつもより声が上ずっている。
「黒ビールもある!やった!」
もうすっかりその気になっている。しかしその熱につられて俺も徐々に気分はビアガーデンモードになっていく。
「っていうか…」
ふとあることが気になった俺は口を開く
「何?」
視線をスマホに固定したまま坂崎さんは言う
「結構人気そうですけど空いてますかね?」
すると坂崎さんはやっと視線をスマホから外して俺を捉えながら
「えー大丈夫でしょ。平日にビアガーデン行く人なんていないよ」
と言う。その言葉を聞いた俺は自分と彼女を交互に指差して
「いや、俺らみたいなのがいっぱいいるかもしれないですよ」
と言う。その言葉を聞いた坂崎さんは少し顔を曇らせて
「うーん、そうかなあ…。じゃあ確認してみようかな」
と言って再び視線を画面に戻す。
「えーと、予約は…当日は電話での問い合わせしか受付てないみたい。1回電話してみるね」
そう言って素早く画面をタッチした彼女はスマホを耳に当てて宙を見つめている。
「…」
しかし待てど暮らせど電話が繋がる気配はない。
「繋がらない、忙しいのかな?」
そんな一人言を横目に俺もスマホでそのビアガーデンのHPを開いて確認していく。
そして衝撃的な一文を目にする。
「坂崎さん」
「何?」
スマホを耳に当てている彼女に俺はその一文を見せる
「水曜定休って書いてありますよ」
「今日何曜日だっけ?」
「…水曜日です」
「えー最悪」
と言って彼女は両手をだらんと下げて目を閉じ顔を上向けて下唇を突き出してふてくされている。
「どうします?」
俺の問いかけにも彼女はそのままの体勢で「う~」と唸ったまま動かない。
「じゃあ、焼肉でも行きます?」
「焼肉!?」
いつもより1オクターブ高い声で俺の言葉に首から上だけで反応して素早くこちらを向いた坂崎さんは
「行こう行こう」
と目をキラキラさせながら身体全体をこちらに向ける。普段の仕事中の真面目モードと仕事外での感情や表情の豊かさのギャップ。
俺はそんな坂崎さんのことが大好きです。