第1話

文字数 812文字

 電気もろくに点けず、シンク下の戸を開け、ごそごそと目的のものを探す。
 ーーーーあった。我が家でたまに食べられている袋麺だ。
 時刻は24時50分。
 こんな時間に親に隠れてラーメンだなんて、ばれたらなにを言われるか……。夕食を残すなんてバカな真似するんじゃなかった。
 そんな背徳感とは裏腹に、いやしくも私の口の中は味噌の甘辛い味を期待してやまない。
 お鍋は……これか。水は……これぐらいかな。火は……こんなもん?
 「やっぱり女子は料理ぐらいできないと」そうクラスの男の子が言っていたのを思い出す。インスタントラーメンは料理に入るのかな。なんて。
 もうじき出来上がるというとき、キッチンの入り口あたりに人の気配を感じ「やばっ」と思いはっと振り向く。
 そこには、ぼけっとこちらを見ている小学生になったばかりの妹が立っていた。
 あぁ……。私はほっと胸を撫で下ろす。
 にこりと微笑んで見せ「しーっ」と人差し指を立てながら手招きをすると、ぱぁっと笑顔を咲かせ、妹はぱたぱたと私のもとへ駆け寄ってくる。
 作っていたのはひとり分だけど、仕方ない。
 私はどんぶりをふたつ用意し、なるべく均等になるようにつぎ分ける。
 くぅと鳴るお腹に待って待ってと言い聞かせながら、妹と並んでテーブルにつく。
 期待してやまなかったあの香りが鼻腔をくすぐる。
 『いただきます』のポーズだけとり、ずずずっとひとくちすする。
 ん~~~っ。
 ふと隣の妹に目をやるとーーーー私を真似てかーーーー相変わらずの笑顔のまま「しーっ」と人差し指を口元に当てた。
 そんな妹の姿に、飲み込む寸前のラーメンを吹き出しそうになるのをなんとか堪える。
 ず、ず、ずっと妹もひとくち。
 すかさず私も口元に人差し指を持っていき「しーっ」
 ずずずっ
 「しーっ」
 ず、ず、ずっ
 「しーっ」
 ふたりして、声をころしながらけらけらと笑う。
 仕方ない。今日ぐらいは、ひとつの布団で一緒に寝てあげようかな。
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