第1話

文字数 1,962文字

 この夏は、かなり厳しい暑さである。
 そして、蝉の声は、激しくなっている。
 新型肺炎コロナウイルスが、収束して、もうこれ以上の大変さは、嫌だと思うのに、この夏の暑さは、ウンザリしそうになる。
 キヨテルは、今日も、会社から帰ろうとしているところだった。
 帰りの電車は、キヨテルも含めてみんな、スマホの動画を見るか、ゲームをしている。または、他の人のインスタグラムを見るか、投稿している。
 通勤からの帰りは、少し、その日の仕事で疲れて、座っている席では、居眠りをしている人もいる。あんな美人さんが、うっつらうっつら寝ていて、横に座っている男性の肩に何度も倒れて、その男の人は、少し、迷惑そうだった。
 キヨテルは、少し、思った。
 電車は、こんなつまらないものだったのか、とも。
 電車は、そんなに辛いものではなかったと思っている。
 キヨテルは、恋人のカスミに、連れられて、よく東海道新幹線の走っている姿を見に行った。そして、カスミは、「びゅわんびゅわん走る」と新幹線の歌を歌っていた。そして、新幹線のことが、カスミは、好きだったのだが、カスミは、新幹線の運転士になりたいのだが、なれずに、今の会社で仕事をしている。
 数日前、キヨテルは、カスミと喧嘩した。
 いや、些細なことだったと思う。
 カスミは、目が生き生きとした恋人だった。いつも口を開けば、「電車の話」をする少し、変わった女の子だったのだが、そんなカスミが、キヨテルにとってみたら、眩いものだったと言える。
 確かに、キヨテルは、堅実な人生を歩んで、大学を卒業して、今の会社にいるのだが、カスミは、どう見ても、畑違いのような今の会社にやむを得ず、就職したのだが、キヨテルは、そんなカスミが、羨ましくもあった。
 そして、ある時、会社のプロジェクトで、一緒になって、それで、付き合ったのだが、数日前、喧嘩して、そして、会えなくなると、少し、寂しいものがあった。
 キヨテルは、いつも、子供みたいに電車の話をしているカスミを疎ましく思う一方で、本当は、そんなカスミが、羨ましくも思い、また、一緒にいないとぽっかり穴が開いたような感じがしていた。
ーカスミと仲直りができないかな?
 なんて思った。
 その時、ふっと、スマホで「東海道新幹線」と検索をしてみた。
 曰く、東海道新幹線は、東京駅から新大阪駅までの高速鉄道を指す、とあった。そして、キヨテルは、東海道新幹線の車庫が、大阪府摂津市の鳥飼とかいうところも知った。
 今は、数日、キヨテルは、カスミと喧嘩になって、LINE一つも来ない。
ーそうだ
 とキヨテルは、思った。
 明日の土曜日・日曜日は、カスミは、こんな調子だから、LINEは、来ない。
 少し、出し抜いて、新幹線で。大阪まで行って、ここの鳥飼車両基地へ行こうと思った。
 土曜日、東京駅へ向かった。
 そして、東海道新幹線のぞみ号で、東京駅から新大阪駅へ向かった。
 朝、東京駅から揺られて、そのまま、新横浜、名古屋、京都、新大阪へ向かった。途中の富士山もゆっくり観ていた。
 一人で、東海道新幹線のぞみ号で、新大阪まで来て、電車に乗って、鳥飼車両基地へ行った。
 鳥飼車両基地まで行ったら、そこには、ずらっと新幹線の車両が並んでいた。
 だが、キヨテル、少し、寂しいような気がした。例えば、カスミは、鉄道が好きだから、こんなに新幹線の車両を見たら、際限なくしゃべっていたと言える。
 しかし、新幹線で大阪まで来て、そして、今、動画を撮ったり、写真を撮ることだってできるのに、それを出来ないのは、キヨテルは、自分が、馬鹿だなとか思っていた。外は熱い。そして、蝉はミンミン鳴くが、どこか、自分が、こんなことをして、辛いものもあると思った。
 慌てて、キヨテルは、新大阪駅まで向かった。
 そして、新大阪駅で、たこ焼きとお好み焼きを食べた。
 しかし、味は甘く感じなかった。
 少し、ほろ苦い感じがした。
 ほろ苦い感じが強く出ているのは、それは、どこか、キヨテルの気持ちが、ネガティブだったからだ。
 新大阪駅から、新幹線で、東京へ戻った。
 周りの乗客は、「やっぱりUSJ良いね」とか言っているのが、横耳で、聞こえたり、または、「これから、東京ディズニーランドへ行くのは、久しぶりやね」と関西弁が、聞こえてきた。
 そして、東海道新幹線のぞみ号は、そのまま、東京べあっという間に戻ってきた。
 日曜日は、少し、休んで、月曜日になった。
 キヨテルは、仕事の休憩時間になって、カスミに「たこ焼きを食べに行かない?」と誘った。そして、カスミに「今度、東海道新幹線のぞみ号の車両基地が、関西にあるけど、行かない?」と誘った。
 カスミは、小さく頷いて、「行こう」と同意した。その時、キヨテルは、たこ焼きが甘く感じたらしい。<完>
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