第1話

文字数 837文字

先日、とある定食屋に行ったときの話である。

その日僕はとてもお腹が減っており、前から行ってみたかった町の老舗洋食屋へ行くことにした。

町の外れにあるそのお店は、書き入れ時を過ぎたにも関わらずたくさんの車が駐車しており、人気のほどがうかがえる。

扉を開けると店内は薄暗く、空席も探すのが難しかったため「すみません」と呼ぶとすぐに店員が来た。


「お客様、初めてのご来店ですか?」


「はい、1人なんですが」


すると店員は
「店内では私語はお控えいただいております。あと、スマートフォンは電源をお切りください。」


雰囲気を意識した店なんだなぁ。
薄暗い中で着信がなったり明るい画面を開くと確かに雰囲気が台無しになるのは納得できた。
席に案内されるとメニューを見た。
薄暗いが何とか見える。


「スピルバーグの150gをください。」


「かしこまりました。」


僕はスピルバーグに目がない。
洋食の王様と言われるだけあって、たいていの店にはあるが、まずスピルバーグに期待を裏切られたことはない。
溶けたチーズのかかったスピルバーグ、粗びきのスピルバーグ、パイナップルの乗ったスピルバーグまであるが、どれもその店の特色が出ていて、メニューを見ているだけでもルンルン気分になる。

ここのお店はどんなだろう、と想像を巡らせているとそれはさっそく運ばれてきた。


「お待たせいたしました。」


鉄板の上にジュウジュウと脂を踊らせているスピルバーグ。デミグラスだろうか、ソースのフルーティーな香りが鼻腔に吹き抜けた。
ナイフとフォークで切り分けると溢れんばかりの肉汁が流れ出てくる。それをほおばると、まさに脳内はジュラ紀だ。
ティラノサウスルが獲物を丸々口に入れ噛み砕いていく、そんな野生の荒々しさを感じざるをえない、まさに未知との遭遇だった。


「う、うまい!」


僕は口のなかを火傷してもお構いなしに頬張り、野生本能そのままにあっという間に平らげた。

デザートに出てきたイチゴのエンドロールは、スピルバーグの余韻を楽しめるような味わい深いものだった。
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