三上鏡花はカンジやすい

文字数 7,801文字

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 私は三上(みかみ)鏡花(きょうか)であり、それ以上でも以下でもない。

 変人もしくは変態と定義されることについては自覚的だし、その性質をあからさまに発現させることで悦を感じたくなる瞬間もたまにはあったりするのだが、そういった私的な事情は意外とどうでもよくて、だったら私はまずなにをどうしたいのかというと、それは至極簡単で、人工性とは無縁であるヒトのオリジナリティは未知の魅力にあふれた摩訶不思議の源泉でありその事実の前にはどのような真実も沈黙する――と主張したいわけだ。個性とはまさに個性的なものだ。リュウグウノツカイあるいはウユニ塩湖くらいユニークだ。あれらはいったい誰がこしらえたのか。作り手がいるならぜひともお目にかかりたいしできることならサインをもらってそれを寝室に飾りた――話が派手に脱線した。油断するとすぐこうなるのだ、私の場合。

 まあいい。
 とにかく、だ。

 私の身体はぬめりとした触手のような万能的物質を欲している。
 私の心は価値観を土足で踏み荒らしてくれるような蛮族を求めている。
 
 私はエジソンやアインシュタインよりずっと尊い。
 そんなことはわかりきった普遍的かつ不変的な事柄でしかない。

 生きているだけで偉い。
 それが私だ。


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 私は今年で二十七になる。
 二十五まではOLとしてあちこちを転戦していた。

 じゃあ、いまは?
 祖父の古本屋を継いだ。

 なぜって?
 字に囲まれる環境をよしとしたからだ。

 採算など度外視の店だ――が、私の生活を最低限存続させるだけの利益は必須となる。そこでどうするかというと、世間には古本を取り扱う巨大チェーン店なるものがあるわけで、当該から仕入れを行うのである。狙いは品揃えがよい直営店。百円均一みたいにして投げ売りされているハードカバーや文庫本の中に玄人好みの掘り出し物が眠っていたりするのだ。そいつを拾ってきてはネットを介して売りさばく。百倍の値をつけても売れるケースもある。ぼろい商売とはこのことだ。渡世の仁義を重んじようなどとは考えたこともない。

 ただし必要以上の稼ぎを得ようとは考えない。

 ネットに商品を掲載する作業が面倒だ。
 配送の準備が面倒だ。
 宅配業者を呼ぶことすら面倒だ。

 そんな極度にめんどくさがりの女が一人いたところで世界の趨勢に影響はない。あったら困る。いや、困らない。私は別に困らない。自己中心的とは私のことだ。

 そもそも「思いやり」という文字の並びが好きではない。
 むしろ嫌いだ。

 綺麗事だけで片づく時代を私は決して望まない。


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 私には異能がある。

 ヒトの心あるいは感情を知ることができるのだ。そのヒトそのヒトがいまそのときに抱いている思いが、私には漢字一文字で見えるのである。ヒトの頭の上に、まるで漫画の吹き出しみたいにして、それははっきりと発生する。

 神様の野郎はなにが悲しくてそんなけちでちんけな能力を私に与えたもうたのか。暇潰しくらいには使えるのだが、裏を返せば暇潰しくらいの価値しか持たない。無用の長物とまでは言わないまでも、それがあるからといってこの先の人生になにかまぎれが生じるなんてことは――恐らくないはずだ。なんでもかんでも断定的に語るほど不自由な人格ではないので、匂わせる程度に留めておくことにする。

 あらかじめ断っておくが、私のキャラクターにブレが生じようが意見や文句はいっさい受け付けない。明日になっても明後日になっても取り合わない。誰に言うわけでもないが、そのへんは諦め、認めてもらいたい。

 ニンゲン設定なんて定性的で遊びの部分があったほうがより快楽的なのだ。


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 私の胸は著しく大きい。高校のときからぱんぱんにふくらんだ水風船のようにでかかった。当然かなり目立つわけで、男子生徒も男性教諭もみな、ひとたび私の姿を拝めばだらしなく鼻の下を伸ばしたものだ。

 その折の彼らの一文字――頭上の吹き出しの中に出現した漢字はなんだったかというと――。

 「揉」が多かった。
 「吸」も少なくなかった。
 「挟」については触れないでおこう。

 「恋」がほとんど見られなかったことで多少幻滅したのは覚えているが、その出来事が私の恋愛観に暗い影を落としたということはない。男はみんな馬鹿だと思い知っただけだ。

 なお、当該能力はオン・オフの切り替えができる。オフができなければ私は私であることをやめたいと嘆いていたかもしれない――というのは大嘘だ。ヒトの心が見えてしまってもそのイレギュラーさに怯えて大泣きするほど私は弱くないし、この世界にもそこまで絶望していない。絶望的なのは後進国の株価だと相場は決まっている。わかりにくいたとえかもしれないので、より絶望的なのは破滅的に加減乗除が苦手な私の脳であると上書きしておく。


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 会社勤めだった頃の話だ。

 男性社員はやはり邪悪な目で見てきたが、そういった視線にはとうの昔に慣れていた――というより、元から人目など気にしない大胆かつ強靭な性格なので、特になんとも思わなかったし、別になんとも感じなかった。たまにオンにすると、これまたやはり卑猥な漢字のオンパレード。その現象は男の性にまつわる趣味嗜好というものは年を重ねたところで成長も変異もしないことを私に予感させた。例外があるなら一つご教授いただきたい――とは思っていないし、教えてやると言われても、だが断る。

 愉快だったことがある。タカ派の閥に所属していた部長の「打」と「蝋」と「虐」に遭遇したときにはクスッとさせられた。

 当時の私はいまの野暮ったい黒眼鏡ではなく、シャープな赤い眼鏡をかけていた。真っ白なブラウスと真っ黒なスカートスーツと併せてユニフォームとしていた。まるで成人ビデオで主演を張る女教師のような風体だったのだ。加えて私は瞳にサディスティックな色を持つ。つまるところ部長は私にいわゆる女王様をやってもらいたかったのだ。鞭で「打」たれることを希望し、液化した「蝋」を身体の至るところに垂らされることを切望し、物理的にも論理的にも「虐」げられることを待望したのだ。そこで私は部長を胸の内で「怠惰な()(ぼく)」と呼称することに決めた。私が退社の挨拶をしたとき、怠惰な下僕は「残」のあとに「念」を浮かべた。しょぼんと肩を落とした様子を回想するだけでにやけ顔になってしまう。思い出し笑いとはよく言ったものだ。

 同僚の女性からの私に対する評価――漢字一文字は「美」が最も多く、次いで「麗」となる。「大」もあった。胸のふくらみのことだろう。「高」はのっぽだなあということだろう。自身の洗練された美貌はなんと罪作りなのだろうと事あるごとに懺悔したくなる――というのは半分程度本当だ。ここであえて付け加えておくと、実は「妬」を一番心地よく感じていた。私に対して「妬」みを覚える女には敬意を抱く。なんて正直なのだろうと敬服する。今後出くわすことがあったらほっぺにチュくらいはしてやってもいい。「好いとーよ」と方言女子を騙ってやってもいい。いずれも需要があればの話である――が、強引という手段が私は案外嫌いではない。


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 昭和の香りが色濃く漂うアーケードの一角にある我が古書店「はがくれ」。その店内は六畳の茶の間と接していて、両方の空間の繋ぎ目は段差になっている。茶の間のほうが五十センチほど高い設計だ。私の日中の定位置は、繋ぎ目付近――茶の間の端に敷いた紫色の座布団の上。店内に投げ出した脚をしばしば組み替えながら読書を重ねる。店番を兼ねた日課というわけである。

 今日も今日とて小説のページを一つめくる。本日の一冊はスピード感のある口語体の文章を連続させる手法で有名な作家の著書。新書サイズでしか発売されていないものだ。手持ち無沙汰さを少しでも改善することを目的として字を次々と脳に送り込んでいるだけだが、それでもなにもしないよりはずいぶんと有意義である。

 秋の日はつるべ落とし。もうすぐ日は暮れるだろうという段になって、おや珍しい、客が来た。女である。

 数分が経過したところで幾分目線を上げ、客の女に視線をやる。女は本棚を物色するふりをしてちらちらと右方――こちらを見てくるではないか。頬を染めている。唇を噛んで、時折切実そうに眉根を寄せる。

 オンにした。
 女の漢字は「惚」だった。
 間もなくして「好」に変化し、それが「恋」へと進化した。

 ほぅほぅ、これはこれは。暇を潰すにあたりおあつらえ向きの展開になるかもしれない。人知れずにやりと笑んでしまうというものである。

 女の姿形をまじまじと見つめる。近所の学校の女子高生だ。紺色のセーラー服をまとい、左肩に提げている布製のマガジントートは黄色である。緑がかった黒髪をおさげにしていて、丸眼鏡をかけている。活字を咀嚼することで性的な快感の頂点に達する(たぐい)だ。穿った見方でもなんでもなく、それは呆れるくらい途方もない事実であると私はすでに確信している。

 本を脇に置き、右膝を抱え、あらためて女子高生――少女に注目する。吹き出しの漢字は「恋」のままだ。もう変化も進化もしないのだろうか。「揉」や「舐」が出てきたら面白いし、「攻」とか「受」が現れたら具体的になって楽しいし、「凹」か「凸」が登場したらいよいよ感動的だし、「尻」の次に「肛」なんかが飛び出してきた日には想像を絶するほどのおぞましさを妄想して鼻血を噴き出してしまうかもしれない。

 そんな私の内面など露知らずであろう少女は文庫本を持って狭い歩幅で近づいてくる。私は座布団から腰を上げ、歩み、年季の入った木製のレジ台を後ろにした。頭一つ小さな少女の貧弱そうな身体を隅々まで熟知すべく上から下に下から上にと舐めるように観察する。少女は胸に抱いた文庫本を両手でぎゅっと握り締め、ついには顔を真っ赤にした。意を決したようで、「こ、これをください!」と文庫本を差し出してきた。

 「慌」てている。
 「焦」りも見える。
 「舞」い上がってもいる。

 まったくもって、かわいらしい。
 貧乳である点については、お悔やみ申し上げる。
 まあ、胸の大小でヒトの値打ちが決まるわけがないのだが。
 もし決まるのであれば、私はすでに国民栄誉賞を授与されている。

 私は文庫本を受け取らなかった。
 作者名だけを確認した。

「宮沢が好きなのか?」
「えっ?」
「宮沢賢治が好きなのかと訊いた」
「えっ、えっ?」

 私は小さく二つ頷いた。

「そうか。この口調はお気に召さないか。あるいはハスキーボイスに驚いたか。どうだ? 私に失望したか? 私に幻滅したか? 私に対する不満はあるか? 私に不服を申し立ててみるか?」
「えっ、えっ、えぇっ?」
「まあ聞け。この矢継ぎ早な話し方は早くに逝去した祖父のそれを真似ている。堤防が決壊した折の洪水のごとく祖父は多弁だった。しゃべりすぎたからカロリー消費量が著しく多くなり、だからとっとと涅槃を見たのかもしれないな。だが冷たくもあり世知辛くもありくだらなくもあるこの星において、私は唯一祖父のことだけは尊敬していたし、その念は現在進行形でもあるんだよ」
「あ、あ、あのっ、えっと、その――」
「ちなみに私は宮沢を読んだことがない。ワイマール憲法もしくはレメゲトンくらい有名な銀河鉄道のほにゃららすら齧ったことがない。いけないか? ダメか? NGか? ゆるせないか?」

 文庫本を胸に抱き直すと、少女は大きな目に涙を浮かべた。
 対して、私は口元をゆがめ、邪ににぃと笑む。
 すると少女はあっという間に身を翻し、一目散に逃げ出した。
 漢字は「怖」になっていた。


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 脅かすつもりは大してなかったにせよ、結果として私は悪いことをしてしまった――わけだが、なんらかの帰結先を求めているであろう少女の意志は驚嘆すべきほど強固で鋼鉄のように頑丈なものであるらしかった。

 昨日の今日で、また訪ねてきたのである。

 少女はえいやあといった感じでガラス引き戸を開けて入店し、おずおずといった感じでこちらに近づいてきて、座布団から腰を上げた私に低い声で「やあ」と迎えられると、「昨日はごめんなさいでしたっ!」などと過去形にはできない単語を過去形にしつつ、ぺこっと頭を下げてみせた。

「いったいなにがごめんなさいなんだ?」
「だ、だってわたし、本を持っていってしまったから」
「ああ、なるほど。そういうことか。返却しに来たというわけか」
「は、はいっ、そうですっ」
「別にかまわなかったんだがな。文庫本一冊に頓着するほど執着するほど私は――否。私はどこまでもスマートでフレキシブルな存在だ。寛大ではあるが繊細でもある。無欲ではあるが貪欲な時間もある。少女よ。そのへん侮ってもらっては困るな」
「えっ、えっ?」

 少女は心許なそうな表情でぱちぱちとまばたきをくり返し、果ては泣きそうな顔をした。私は少女の前に立ち、オン、漢字は「惑」。感心なことだ。カーボンニュートラルを推進するしかなくなってしまったこの水の「惑」星の行く末を憂いているようだ――なんてことはないのだろうな、たぶん。戸「惑」っているだけだろう。

 少女は左肩に提げている黄色いマガジントートからくだんの文庫本を取り出すと、それを両手で差し出してきた。

「あ、あのっ、とにかくお返しします。ごめんなさいでしたっ」
「きみは文学少女だろう? 日本語は正しく使ったほうがいいし、使うべきだ。さあ、この意見に異論を唱えてみたまえよ。私はそうしてもらえることを願望として強く抱いている」
「えっ、えっ?」
「さて、ここで重要なのは私が地球をあまり好いてはいないという事実だ。マントラには惹かれてもマントルには興味がないということだ。どうだろう。ここまで私と接してみて、きみはそこにシュールレアリスムを見ただろうか?」
「シュ、シュール? シュール、かもしれません、と、思います、です……」
「心外だ。私はいま、きみのことがとても嫌いになった」
「えぇぇっ!?

 あえて意味不明なセリフを並べ立てることでディスコミュニケーション感を演出しているのではない。私は素直にこういうニンゲンだ。嫌なら観るなの精神に近い。そうだ。嫌悪感を覚えたのなら回れ右をすればいい。

 相変わらず漢字は「惑」だ。
 「怖」に変化しない。
 昨日の一件で耐性を得たのか、それとも脳の根幹部分になんらかの障害を抱えてしまったのか――といった話はどうだっていい。

「なあ少女よ、同性なれど、私とのまぐわいを望むかね?」

 少女の顔がかぁっと赤くなった。漢字は「恥」だ。ただひたすら「恥」ずかしいのだろう。「初心(うぶ)すぎてカワユス」などと発言したら私にもかわいらしさという得難い資質が備わるのだろうか。もしそうならたいへん興味深い。神のマスターピースたる私に欠けているのは萌えのみだと言っても過言ではないのだから。

「あ、あのっ、わたし、その、実はあなたの写真を――っ」
「自慰用のアイテムにするんだな?」
「ちっ、違います違います!」

 少女は激しくかぶりを振る。
 混「乱」の「乱」の字。

「私はミロのヴィーナス以上の黄金比を誇る女だが、あいにくと写真写りだけは悪くてね。不本意な静止画を残すくらいならきみを絶頂に導いてやったほうが善人を謳えるし話も早い。早いんだよ、わかるかね、きみ。きみが早くないことを祈る。早く果てることは悪か災いでしかないのだから」
「えっ、えっ、えっ? ――きゃっ」

 ぎゅぅぅぅっと抱き締めてやると少女は「やっ、やだぁ……っ」と身をよじろうとした――が、微塵も離さないし逃がしてやらないのだ――が、要するに唇を唇でぎぅぅっときつく塞ぎ、口づけをディープなものへと変え、とどのつまりは硬く強張った少女の身体がびくんびくんと小刻みに跳ねる感覚を私は全身全霊を込めて味わってやったということだ。

 それから茶の間に連れ込んで他人には言えないことをいろいろ――した。
 いたいけな少女の肢体が死体のように弛緩するまでいろいろ――した。

 身体中から液体という液体を絞り尽くすことを強いられてしまった少女は、事後、麦茶をごくごくごくと二リットルも飲んだ。


*****

 セックスフレンドを日本語に訳すとなにになるのかという疑問を抱きつつ、私は定位置――紫色の座布団の上でロジカルシンキングに関するビジネス書を読んでいる――のだが、目当ての記述はまるで出てきやしない。残念だ。ロジカルシンキングとはもっと汎用性に優れたものだと考えていた――わけがない。頭蓋骨の内側に灰色の脳細胞が詰まっていたりはしないが、当該書籍にお門違いの難題を吹っかけていることは理解している。私は誰よりも聡明なのだ。木星からヘリウム3が消失してもその事実だけは変わらない。

 くだんの少女――()(づる)が、今日もやってきた。

 彼女はえらく変わった。
 おさげをやめ、コンタクトにした。
 下着も水色から黒になったので、そこにはまた違った味わい深さがある。

 「鏡花さん、わたし、また男の子から告白されてしまいました」

 平然と「また」と言ってしまうあたりに、自尊心の強さが見え隠れする。千鶴ははなからそういうニンゲンだったようで、そのことが私からすればマイナスポイントだ――などということはない。命短し恋せよ乙女。ほのぼのとした純愛でもいい。猛々しく性の営みに特化してもいい。わんぱくでもいい、逞しく育ってほしい――というネタはさすがに古すぎる。そもそもわんぱくの語源を知りたい。今度調べてみようと思う――覚えていたらの話だ。

 私は胸の谷間に挟んでいた赤ペンを抜き取り、本のページにバッテンをした。無意味な行動だが胸がすく思いがする。意識高い系は滅びればいい。見ているほうに不快感しかもたらさないのだから――なんて言うとこのご時世、差別と受け取られなくもないだろうから、その旨は内緒にしておこうと思う。そういえば、自身の著書の中で「内緒と沈黙はどこが違う?」と問うた作家がいた。答えは「内緒は人間にしかできない」だったか。物書きは総じて頭でっかちに過ぎないという評価は依然として変わらないが、気の利いた口を利く度胸がある輩がいることは認めてやってもいい。

 さあ、今日もいよいよ日が落ちようとしている。

「千鶴、おまえは両性愛者ということでいいのか?」
「うーん、まあ、そうですね。それでなんですけれど、その……これから、してもらっても、いいですか……?」
「もじもじする様は実にかわいらしい。だが断る」
「えっ、えぇーっ! どうしてですかぁ?!
「ツンデレ日和なんだよ」

 私はツインテールに結った黒髪――その毛先を右手の指で弄ぶ。
 鏡に映る姿に萌えの要素は皆無だったが、自らの記号化には成功した。
 たまにはこういった趣向を取り入れるのもいいようだ。
 なんとも言えない愉悦に浸ることができる。
 高杉晋作の辞世の句に垣間見える精神性は、大いに大切にしたい。

「鏡花さん、教えてください。いまのわたしの漢字はなんですか?」

 オンにする。
 もちろん「愛」だ。

 しかし、言わない。
 これまで口にしたこともない。
 もう少し大きくなったら、教えてやろうと思う。
 「愛」を語るにあたって、千鶴はまだまだ未熟すぎる。
 生娘の私が言えたことではないのかもしれないが。
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