第1話

文字数 717文字



いつも通る花屋の店先に
見慣れない 薔薇の花が売られていた

それは一瞬で私の心を虜にする程麗しく
そして可憐で

そして何処か人工的な色彩が 酷く目についた

なんとなくその花を一輪 掌で触れると
自分の肌の色

そして他の薔薇たちと比べて
文字通り異彩を放っているのが改めて実感することになった


たくさんある花々のなかで
何故この薔薇が気になったのかはわからない

少しの間、私はその花だけを見つめていた

気がついた店の店員が そんな私の傍までくると
「めずらしいでしょう」 と
その花の説明をしてくれた

どうやら品種改良で最近開発された新種らしい
この店舗でしかまだ扱っていないのだ、と
自慢げにその花を勧めてくれた

きれいですね

説明してくれた店員に礼を言うと
そのまま、手ぶらで店を後にした

でも、必要ないから――


美しい花
人工的に創られたその花は 確かにこの世界に生きていて
咲き誇る姿は蕾でさえ魅せられた

その薔薇を欲さなかったわけじゃない
きっと手にして持ち帰ったなら――
まるで花が自分のことのように誇らしかったに違いない

けど、私はその花を手にしなかった

どんなに綺麗に咲いていても
これから開く華であっても

それでもいつかは朽ち 枯れてしまうものだから

そんな姿を見たくなかった

そんな当たり前がひどく哀しく 酷く残酷で

そんな事を思う自分がとても滑稽で虚しかった

きっと私は いつか来る可能性
そんな解り切った未来に
立ち向かう事さえ出来ない

そんな
ただそんな弱いだけの人間なんだと思う


いつも通るその花屋には
当たり前のように 美しく咲く花しか飾っていなかった
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