第6話 カレーに何を隠すのか

文字数 1,115文字

 初めて自力で最初から最後まで作った料理はカレーだったという人は多いのではないだろうか。
 私もその一人。
 小学四年生だった。
 肉や野菜を切り、鍋で肉の色が変わるまで野菜と共に炒め、水を入れて灰汁を掬いながら煮る。煮えたら火を止めルゥを割入れ、溶けたらもう一度煮込む。
 切る、炒める、煮ると基本の工程でできるのも、初料理に選ばれやすい特徴か。
 あのときのやり遂げた感は半端なかった。料理は楽しい! みんなも喜んでくれる!(←これは両親の手柄だ)
 以来、カレーは(母の)気が向いたら作らせてもらっていた。

 ある日曜日、両親と弟は大型スーパーに買い物に出掛けるという。
「じゃあお留守番してカレー作っておいてあげる」
 くれぐれも火の用心をと言葉を残して家族は出掛けていった。
 米を研ぎ、カレーにとりかかる。
みんながビックリするほど美味しく作ろうじゃないか!
 そのとき、何かで聞いた「隠し味」という単語が頭に浮かぶ。
 さて、何を隠そうか・・・
 冷蔵庫を確かめる。
 牛乳はNGだ。給食でカレーの残りの鍋に、飲み残しの牛乳を入れたビジュアルが浮かぶから。
 いろいろあるんですよ。味噌とかソースとかそういう定番のものが。
 しかし小6の私がチョイスしたのはオレンジジュースだった。
 酢豚にはパイナップルが入っている(私は嫌だけど)。それにCMで「リンゴと蜂蜜」って言ってるし、フルーツは隠し味として王道のようだ。
 カレーにオレンジジュースを入れたらば、トロピカル~なカレーになるはずだ!
 トポトポと鍋に入れる。
 お玉で混ぜて味見をする。
 ん?
 なんか変わった味がする……。
 少し煮込んだらいいかも。
 とかなんとか味見を繰り返しているうちに、よく分からなくなってしまった。
 夕食時、一口食べた両親の動きが止まった。
「何入れた?」
「さて何でしょうか?」
とクイズ形式にしたが、誰も当てることはできなかった。
 その後も、私はカレーにいろいろなものを加える。

 もはや素カレーは作れない体になっていました。

 ちなみに、母が一番覚えている隠し味はコーヒーだったという。なかなか斬新な味で忘れられないと言っていた。私自身、コーヒーを入れていたことは全くもって忘れていたけれど。
 その後、大人になって彼氏に
「お前、カレー下手だな」
と言われるまで、チャレンジは続いた。
 私の隠し味は美味しくはならない。
 でもカレーという最強の個性によって、食べられないほどにもならない。

 その後数年、私はカレー作りを封印したが、今は再び隠し味を入れながらカレーの懐の深さに頼っている。
 最近の隠し味はチョコレートに落ち着いた。
 そしてやっぱり素カレーは作れず、何かしらを隠しているの。
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