夏の終わりに

文字数 1,714文字

 暦の上では八月が終わり、もうすぐ九月になる。
 真夏に鳴くミンミンゼミの鳴き声は、夏の終わりを告げるツクツクボウシに変わりつつあったが、暑さはまだまだ継続するらしいと、テレビのニュースでアナウンサーが伝えていた。
 もう暑いのは嫌、勘弁してくれと思う。

 あーあ、あと数日でいよいよ学校が始まってしまう。さようなら夏休み……。
 もっと夏休みが長ければいいのに……なんて考えるのも、もう何度目だろう。
 夏休みが始まる前に予定を立てても、やり残したことなんて、たくさんある。
 夏休みに入ったら、思いっきり遊ぶぞー! と満足するほどあちこち遊びに行けたわけではない。
 むしろ粛々と苦手な夏休みの宿題を片付けるべく勉強漬けの毎日だった。
 いや、面倒なものはさっさと終わらせたいじゃない? そうでもない人もいるんだろうけどさ。
 私は夏休み最終日に、一日で全ての宿題を片付けるなんて地獄はもうこりごり。
 そんな経験、学生人生に一度で十分だ。
 その昔、一度だけ毎日毎日遊び回った結果、最終日に宿題を一気に一夜漬けでこなす羽目になって泣いた。
 当然ながら宿題は終わらないまま、ほぼ真っ白いページばかりが並んだそれを提出した時、当時の担任の先生にものすごく怒られたのが懐かしい。
 それにしたって、先生方はなんであんなに宿題を出すのかなあ。終わらせるの大変なんだけど。
 宿題も、教科によってはかなりの冊数を出されるため、量が平等ではないと常々思っている。
 運動部に所属していれば、長期休みだろうが関係なく部活動に参加するし、疲労困憊状態で宿題はきついものがあるんじゃないだろうか。
 昼間は熱中症にも気をつけないといけないし、もしかして夏休みって、楽しむよりも苦しむものではないかしら……。

 夏の終わりくらい、せめて優雅に締めくくりたいものだと願ってみたくもなる。
 けれど、現実は残酷なもので、大きな花火大会は八月の初頭に開催され、終盤に近い辺りには軒並み終わっていたのだ。
 となると打ち上げ花火はもう無理だから諦めるしかない。
 仕方なく手持ち花火で妥協することにした。
 暇をしていそうな友人に声をかけ、浜辺に来てもらった。
 消化用のバケツに水を張り、チャッカマンも準備済み。
 ゴミも持ち帰られるように大きめな袋も持ってきてある。
 自然環境を大事にしようという風潮の最中、海を汚すわけにはいかない。
 小さなことでもできることはやらなくてどうするんだ。
 しかし、この程度でどこまで環境に優しいことができているのかは疑問が残るところだ。

 買い貯めた花火のセットの中からひとつを手に取り着火して眺める。
 これはこれで風情があっていいんだよね。
 あくまで個人的意見だけど。
 友人と花火をしながら、あれこれ語り始める。
「もうすぐ夏も終わるよね。始まる前は休みがたくさんあるよねって楽しみだったのにさあ、もうあっという間に終わっちゃうじゃん。なにも楽しめてないや」
「私は文化部でほとんど集まることもなかったからダラダラして過ごせたよ。ただ、宿題がまだいくつか終わってなくてさ、このあと手伝ってくれない?」
「手伝いって……あと数日で学校始まるのに終わってないの?」
「簡単なのだけ、最後にしても間に合うだろうって後回しにしたの。で、やらないまま今日まで……ってわけ」
「……仕方ないなあ。花火に付き合ってもらったお礼として、手伝うよ。私はあくまでも監督役としてだから、自分でなんとかして終わらせること!」
「なんか厳しくない?」
 とても花火をしながらする会話ではない。
 しかし、宿題は自分でやってこそ身につくものだ。他力本願過ぎるのはよくない。

 ついに、迎えたくなかった夏休み最終日を迎える。
 宿題、やっと終わった……と友人からSNSで報告があった。
 ぬか喜びしているところ悪いけど……明日から新学期ですぐに宿題の範囲の中から小テストが開催される。成績にも反映される大事なテストだ。
 そして、友人がそのテスト勉強までしていたのかは、謎であった。
 明日になれば、どうだったのかは嫌でもわかること。
 せめて、彼女が赤点を取らないようにと心の片隅で応援することにした、夏の終わり。
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