第1話
文字数 1,822文字
寝坊した私の横を、高級外車が通り過ぎ、超名門と名高い私立学校の豪華な校門の前に止まった。VIPと呼ばれる、車通学を許された生徒達のご登校だ。
見目麗しく、成績優秀、運動神経抜群の選ばれた生徒が、車から降りたつ。
車から校門までを一般生徒が並び、頭を下げてお迎えしている。彼らを一目見ようと集まってくる他校の生徒達をブロック、ガードする為でもある。まるで大名行列。
この大名行列の前に登校したかったんだけど、目覚ましを止めて二度寝した自分が恨めしい。
一人降りてくるごとに、キャァキャァと騒がしい悲鳴が上がる。
私の学校は、この人垣の向こうにあるごく普通の公立高校。以前、人垣を縫って強行突破しようとしたんだけど、すっごい勢いで名門校の生徒に睨まれたので、それからは大人しくVIP様方のご登校が終わるのを待つことにした。
ステキ~~とか、羨ましい~~とかが飛び交っているけれど、今までの人生すべてを覚えている私には、お気の毒としか思えない。
王族貴族、上流階級とかに産まれた瞬間から、ある程度の能力を求められる。それが出来なければ、無能、役立たずのレッテルを貼られる。
出来過ぎても問題で。跡継ぎだったらいいけど、次男三男になると命の危険も出て来る。
「キャァ、いつ見てもお綺麗~~!」
女は、美しさを求められる。美人に生まれなければ価値なしレッテルだ。
普通の家に超絶美人で生まれた時は、大金持ちのスケベじじいに目をつけられて、金に物を言わせて妾にされた。
若い妾に嫉妬した正妻さんにいびりまくられた。美人に生まれるのも考えもの。
その前が超ド底辺の奴隷で、ろくに食べる事さえできずに最終的に餓死したから、オマンマ食べられるだけでいいか、となんとか耐えた。
「聖女様だわ! なんて清らかな佇まいなのかしら」
神に仕える巫女だった時もあったな。色々やってるなぁ、私。
世俗から掛け離れた所だけど巫女と言えども人間で、上級職へ就く為に足の引き摺り合いの毎日。ある年に長く日照りの日が続いたので、人身御供の話しが出た。
足の引っ張り合いの日々に嫌気がさしてたので、私は自ら志願した。
そして、私はその儀式の時に神様にお願いをした。巫女と言えど神と会話が出来るわけではないけれど、心の奥底から願った。
あ、最後の車がご到着した。やっと動ける。
野次馬の他校の生徒はそれぞれの学校へ向かい始め、私立校の生徒は学舎へと足を運ぶ。
煌びやかで豪奢な美しい校舎に校庭ではあるけれど、きっと中は、ドロドロのヌメヌメの、真っ黒クロ助に違いない。
すると、最後の車が何故か慌てて戻って来て、運転手が飛び出すと、その車から降りたであろうVIP生に駆け寄り、
「お父様がお倒れになられたそうです!」
と、叫んだ。
ざわっと、周りの生徒がざわめく。
運転手とVIP生は急いで車に戻って、走り去って行った。
「あら、大変ね」
「ああ、あそこはあの父親の腕一つで持っていたからな」
「そうね。でも、これでVIP生の枠が一つ空きそうね」
「かな?」
あらあら、見事なる上流階級、特権階級のお方達の考え方よね。
嫉妬に怨恨、策謀に計略。あんな所に二度と身を置きたくないわ。
かと言って、あの連中の餌食になって、底辺さ迷うのも真っ平御免。
そんな事を思いつつ、私は自分の学校へと入って行った。
公立難関校でもないし、滑り止めにしかならないわけでもない中間校。
成績は中の上。容姿は美人ではないけれど、見れないほど酷くはない、と思っている。
言ってみれば、どこにでも居そうな平凡な女子高生。
神様、ありがとうございます! 私の願いを聞き届けて下さって!
『お願いです! どの世界、どの時代でもいい! その世界の一番平均的で、中庸! 普通で平凡な人生をお与えください!』
平凡て言うと詰まらないと思われそうだけれど、とんでもない!
教室に入り、友達とテレビやアイドルの他愛もない話をする。この平穏、平和な空気こそが、平凡の素晴らしさよ!
そりゃ、嫌な事も、腹立つ事もあるけれど、お隣に通わざるを得ない人達、もしくは高校にも通えない人達に比べたら、なにほどの物だわ!
常に周りの顔色を見て神経すり減らす事もないし、普通の人を見て羨む事もない!
目立たず、周りに溶け込んで、無難にこっそり生きる平凡な人生を全うするのが、私の人生の目標よ!
〈完結〉
見目麗しく、成績優秀、運動神経抜群の選ばれた生徒が、車から降りたつ。
車から校門までを一般生徒が並び、頭を下げてお迎えしている。彼らを一目見ようと集まってくる他校の生徒達をブロック、ガードする為でもある。まるで大名行列。
この大名行列の前に登校したかったんだけど、目覚ましを止めて二度寝した自分が恨めしい。
一人降りてくるごとに、キャァキャァと騒がしい悲鳴が上がる。
私の学校は、この人垣の向こうにあるごく普通の公立高校。以前、人垣を縫って強行突破しようとしたんだけど、すっごい勢いで名門校の生徒に睨まれたので、それからは大人しくVIP様方のご登校が終わるのを待つことにした。
ステキ~~とか、羨ましい~~とかが飛び交っているけれど、今までの人生すべてを覚えている私には、お気の毒としか思えない。
王族貴族、上流階級とかに産まれた瞬間から、ある程度の能力を求められる。それが出来なければ、無能、役立たずのレッテルを貼られる。
出来過ぎても問題で。跡継ぎだったらいいけど、次男三男になると命の危険も出て来る。
「キャァ、いつ見てもお綺麗~~!」
女は、美しさを求められる。美人に生まれなければ価値なしレッテルだ。
普通の家に超絶美人で生まれた時は、大金持ちのスケベじじいに目をつけられて、金に物を言わせて妾にされた。
若い妾に嫉妬した正妻さんにいびりまくられた。美人に生まれるのも考えもの。
その前が超ド底辺の奴隷で、ろくに食べる事さえできずに最終的に餓死したから、オマンマ食べられるだけでいいか、となんとか耐えた。
「聖女様だわ! なんて清らかな佇まいなのかしら」
神に仕える巫女だった時もあったな。色々やってるなぁ、私。
世俗から掛け離れた所だけど巫女と言えども人間で、上級職へ就く為に足の引き摺り合いの毎日。ある年に長く日照りの日が続いたので、人身御供の話しが出た。
足の引っ張り合いの日々に嫌気がさしてたので、私は自ら志願した。
そして、私はその儀式の時に神様にお願いをした。巫女と言えど神と会話が出来るわけではないけれど、心の奥底から願った。
あ、最後の車がご到着した。やっと動ける。
野次馬の他校の生徒はそれぞれの学校へ向かい始め、私立校の生徒は学舎へと足を運ぶ。
煌びやかで豪奢な美しい校舎に校庭ではあるけれど、きっと中は、ドロドロのヌメヌメの、真っ黒クロ助に違いない。
すると、最後の車が何故か慌てて戻って来て、運転手が飛び出すと、その車から降りたであろうVIP生に駆け寄り、
「お父様がお倒れになられたそうです!」
と、叫んだ。
ざわっと、周りの生徒がざわめく。
運転手とVIP生は急いで車に戻って、走り去って行った。
「あら、大変ね」
「ああ、あそこはあの父親の腕一つで持っていたからな」
「そうね。でも、これでVIP生の枠が一つ空きそうね」
「かな?」
あらあら、見事なる上流階級、特権階級のお方達の考え方よね。
嫉妬に怨恨、策謀に計略。あんな所に二度と身を置きたくないわ。
かと言って、あの連中の餌食になって、底辺さ迷うのも真っ平御免。
そんな事を思いつつ、私は自分の学校へと入って行った。
公立難関校でもないし、滑り止めにしかならないわけでもない中間校。
成績は中の上。容姿は美人ではないけれど、見れないほど酷くはない、と思っている。
言ってみれば、どこにでも居そうな平凡な女子高生。
神様、ありがとうございます! 私の願いを聞き届けて下さって!
『お願いです! どの世界、どの時代でもいい! その世界の一番平均的で、中庸! 普通で平凡な人生をお与えください!』
平凡て言うと詰まらないと思われそうだけれど、とんでもない!
教室に入り、友達とテレビやアイドルの他愛もない話をする。この平穏、平和な空気こそが、平凡の素晴らしさよ!
そりゃ、嫌な事も、腹立つ事もあるけれど、お隣に通わざるを得ない人達、もしくは高校にも通えない人達に比べたら、なにほどの物だわ!
常に周りの顔色を見て神経すり減らす事もないし、普通の人を見て羨む事もない!
目立たず、周りに溶け込んで、無難にこっそり生きる平凡な人生を全うするのが、私の人生の目標よ!
〈完結〉