にんぎょうとはなすこ

　

　まどからはいるひざしのなかに、きんぱつのにんぎょうをだく、くりげのおんなのこがいます。

「わたしはメアリー。あなたはドール。わかった？ドールだよ。ね、わかった？」

　メアリーはにんぎょうをてにして、はなしかけています。

「しろいドレスをきましょう。きいろのリボンをつけましょう。ほーら、かわいくなったでしょう。ふふふ……。ほーら、おそとであそびましょう」

　しろいドレスをきて、きいろいリボンをつけたにんぎょうをだいて、メアリーはにわにでました。

「おはながいっぱいさいてます。あかいろ、きーいろ、しろいいろ。メアリーがママ、ドールはベビー。わかった？ベビーだよ」

　にんぎょうをだいて、にわのきにつったブランコにのりました。

「ゆりかごごっこ、ぶーらぶら。ふふふ……。ほらほら、ネンネのじかんです」

「メアリー、おひるごはんですよ」

　おばあちゃんのこえです。

「はーい」




　しょくじのときも、メアリーはにんぎょうをだいたままです。

「メアリー、にんぎょうはいすにおいて」

　おばあちゃんに、いつもちゅういされます。

「はーい」

　メアリーはしかたなく、にんぎょうをよこのいすにおきます。

　かいしゃづとめのママは、よるまでかえりません。



　あるひ。きゅうにママにあいたくなったメアリーは、おばあちゃんにないしょで、にんぎょうとおでかけしました。

　ママのかいしゃがあるいちにさんばんちまでは、くるまのとおるみちをいくつもわたらなくてはいけません。

「いちにーさんにいきましょう。ママにあいにいきましょう。ふふふ……」

　メアリーは、しゃどうにつづくこみちをあるいています。

「おはながいっぱいさいてます。ことりもチュンチュンないてます」



　みちばたのはなやことりのさえずりにむちゅうになっているうちに、メアリーはみちにまよってしまいました。

　あたりをキョロキョロしながら、しゃどうにつづくみちをさがしました。

　でも、どんなにあるいても、みつけることができません。

　とうとう、つかれはてて、くさのうえにすわりこんでしまいました。

　すると、とつぜん、そらがくらくなって、あめがふってきました。

　メアリーもにんぎょうもびしょぬれです。

　こわくて、さむくて、メアリーはないてしまいました。

「ママーッ！ママーッ！」

　メアリーのからだはひえきってしまい、あるくちからもありません。

「……ママ」

　メアリーは、みちにたおれると、いしきをうしなってしまいました。――




　――メアリーは、おうちのベッドにねていました。

　おばあちゃんは、しんぱいそうにメアリーのてをにぎると、

「こんなあめのなか、どうやってひとりでかえってきたのかしら……」

　とつぶやきました。

　にんぎょうはベッドのしたで、まるでしんだようにぐったりしていました。

　にんぎょうのかおも、しろいドレスも、どろでよごれています。







　――げんかんからベッドまで、にんぎょうのあしあとがありました。



　おわり