第1話
文字数 2,051文字
シュー、シュー
一台の自転車が猛スピードで坂を駆け降りた。道行く人は皆立ち尽くすだけで動ける者はいなかった。
「やばいやばい」ブレーキがかからない。自転車はどんどん加速していく。
下り坂の執着地点に踏切が見えた。
―これ、どこかで見たことあるけども
カンカン、音がすると踏切が降りてきた。足を地面に擦り付けどうにか止まろうと試みた。しかし、加速しきった自転車はスピードを落とすどころか徐々に上げていった。
―某有名アニメ映画で見たことあるシーンだけども。俺タイムリープなんかできないよね?
擦り付けていた足から靴がするりと抜けた。ポンポンと転がるがあっという間に自転車に置き去りにされた。
電車が猛スピードで近づいてきているのが横目で見える。
―え、もしかしてできちゃったりする?いやいやそんなわけないよな
踏切に衝突すると身体だけが浮き上がり線路上に投げ出された。最高到達点で電車にぶつかりそうだ。世界がスローモーションに見える。
「あ…、死ぬ…」
走馬灯なんて嘘だと思っていた。でも、本当に見るものなのだ。走馬灯を見るには薄い人生だったが、こういう時はちゃんと憧れの好きな子の事を思い浮かべるものなのだ。
―あ~、こんなことならアズサちゃんに告白しとけばよかった。
会話したことすらない憧れのあの子、もし生まれ変われるのならば転生先はまた彼女のいる世界にしてください。
バン、と大きな音が鼓膜を揺らす前に世界が真っ暗になった。
目が覚めると太陽にジリジリと体が焼かれていた。
「あっつーい」その声は聞き覚えがあった。
反応しようとしたが声が出ない。体も動かない。
「アズサ、弁当忘れているわよ」
「あ、ごめーん。ありがとママ」
憧れのあの子がこちらに近づいてくる。長く艶やかな黒髪を揺らしながらこちらに駆けてくる。体が動かない。
彼女は近くで立ち止まると、俺の顔の前で大きく足を上げた。スカートの中が綺麗に見えた。白だ。
―え、ええ、嘘。ぶほほお
憧れのあの子が自分の顔に跨った。明らかにダメなところが顔に押し付けられている。視界は真っ暗だが何よりいい匂いがした。
そして風を感じた。動き出したらしい。再び視界に光が差し込んだ時最初に捉えたのはあの子のパンツだった。
―幸せだ。何て幸せな夢だ…
横目で流れる景色の速度が速い。シュー、シューと聞き覚えのある音が聞こえる。
―ん、これは。お、俺、サドルか?電車にひかれてサドルに転生したのか!憧れのあの子のサドルに。
最高の転生を遂げてしまった。生前に何度サドルになることを望んだことか。夢がかなってしまった。
バン、二年二組の扉を開く音が勢いよく教室中に響いた。
「大ニュース!今朝三組の渡辺が電車にひかれたらしいぞ」皆一瞬驚いたがすぐに元に戻った。
「三組の渡辺ってあのオタクみたいなやつ?」
「可哀相やけど、どうでもいいかな」教室中がそんな反応をした。カースト最下位が電車にひかれたところで当たり前の反応なのかもしれない。
だが、一人ビニール袋を片手に教室を飛び出した。
―あ~、駐輪場ってこんなに暇なんだな…
サドルの気持ちが分かった気がした。にしても、駐輪場は鳥の糞が多いことが有名で大勢の在校生が悩ませられている。今も両隣の自転車のサドルは元から白だったのではと疑うほど糞まみれだ。しかし、俺は美少女のサドル、糞一つ汚れ一つついていない。この世界は不平等なんだと気づかされた。
「はあ…」
どうやら一人駐輪所に現れた。小太りで眼鏡、見るからに差別されるタイプのオタクだ。
―あれは…二組の田口?
知り合いだった。同類だった。オタク仲間の田口が一人寂しく駐輪所に現れた。
差し詰め一人で昼食でも食べに来たのだろう。左手にビニール袋が見える。
だが、田口はこちらにまっすぐ歩いてくる。目の前で立ち止まると、ガサガサとビニール袋から瓶を取り出した。いちごジャムだった。
―う、嘘だろ…
最悪のことが頭をよぎった。
次の瞬間にはそのことが現実となっていた。
―お…ふうう
田口は顔中に、いやサドル中にジャムを塗りたくった。
「渡辺~、お前のことは絶対に忘れないぞ」
ベロベロとサドルを嘗め回す。故人を思いながら、JKのサドルを嘗め回す。
―こいつ、まじか。たまに一人で駐輪所に行っていいたのは知っていたのだけども…
「アズサちゃ~ん」田口はジャムを追加しサドルを嘗め回す。
―それただの変態やからな。最初から最後まで。
田口は手を合わせ神に感謝するとビニール袋片手に駐輪所を後にした。
今日一日色々なことがあった。幸せな転生を遂げたと思っていたのにそれは地獄の毎日の始まりなのかもしれない。言うならばブラック転生先なのかもしれない。
学校が終わるチャイムが聞こえた。生徒たちが続々と駐輪所に現れる。
「は~、今日も疲れた…」
ふわりといい匂いと共に視界が白になった。柔らかい感触。
俺はこの瞬間嫌なことは全て忘れた。誰もが羨む願望を体現してしまったのだから。
一台の自転車が猛スピードで坂を駆け降りた。道行く人は皆立ち尽くすだけで動ける者はいなかった。
「やばいやばい」ブレーキがかからない。自転車はどんどん加速していく。
下り坂の執着地点に踏切が見えた。
―これ、どこかで見たことあるけども
カンカン、音がすると踏切が降りてきた。足を地面に擦り付けどうにか止まろうと試みた。しかし、加速しきった自転車はスピードを落とすどころか徐々に上げていった。
―某有名アニメ映画で見たことあるシーンだけども。俺タイムリープなんかできないよね?
擦り付けていた足から靴がするりと抜けた。ポンポンと転がるがあっという間に自転車に置き去りにされた。
電車が猛スピードで近づいてきているのが横目で見える。
―え、もしかしてできちゃったりする?いやいやそんなわけないよな
踏切に衝突すると身体だけが浮き上がり線路上に投げ出された。最高到達点で電車にぶつかりそうだ。世界がスローモーションに見える。
「あ…、死ぬ…」
走馬灯なんて嘘だと思っていた。でも、本当に見るものなのだ。走馬灯を見るには薄い人生だったが、こういう時はちゃんと憧れの好きな子の事を思い浮かべるものなのだ。
―あ~、こんなことならアズサちゃんに告白しとけばよかった。
会話したことすらない憧れのあの子、もし生まれ変われるのならば転生先はまた彼女のいる世界にしてください。
バン、と大きな音が鼓膜を揺らす前に世界が真っ暗になった。
目が覚めると太陽にジリジリと体が焼かれていた。
「あっつーい」その声は聞き覚えがあった。
反応しようとしたが声が出ない。体も動かない。
「アズサ、弁当忘れているわよ」
「あ、ごめーん。ありがとママ」
憧れのあの子がこちらに近づいてくる。長く艶やかな黒髪を揺らしながらこちらに駆けてくる。体が動かない。
彼女は近くで立ち止まると、俺の顔の前で大きく足を上げた。スカートの中が綺麗に見えた。白だ。
―え、ええ、嘘。ぶほほお
憧れのあの子が自分の顔に跨った。明らかにダメなところが顔に押し付けられている。視界は真っ暗だが何よりいい匂いがした。
そして風を感じた。動き出したらしい。再び視界に光が差し込んだ時最初に捉えたのはあの子のパンツだった。
―幸せだ。何て幸せな夢だ…
横目で流れる景色の速度が速い。シュー、シューと聞き覚えのある音が聞こえる。
―ん、これは。お、俺、サドルか?電車にひかれてサドルに転生したのか!憧れのあの子のサドルに。
最高の転生を遂げてしまった。生前に何度サドルになることを望んだことか。夢がかなってしまった。
バン、二年二組の扉を開く音が勢いよく教室中に響いた。
「大ニュース!今朝三組の渡辺が電車にひかれたらしいぞ」皆一瞬驚いたがすぐに元に戻った。
「三組の渡辺ってあのオタクみたいなやつ?」
「可哀相やけど、どうでもいいかな」教室中がそんな反応をした。カースト最下位が電車にひかれたところで当たり前の反応なのかもしれない。
だが、一人ビニール袋を片手に教室を飛び出した。
―あ~、駐輪場ってこんなに暇なんだな…
サドルの気持ちが分かった気がした。にしても、駐輪場は鳥の糞が多いことが有名で大勢の在校生が悩ませられている。今も両隣の自転車のサドルは元から白だったのではと疑うほど糞まみれだ。しかし、俺は美少女のサドル、糞一つ汚れ一つついていない。この世界は不平等なんだと気づかされた。
「はあ…」
どうやら一人駐輪所に現れた。小太りで眼鏡、見るからに差別されるタイプのオタクだ。
―あれは…二組の田口?
知り合いだった。同類だった。オタク仲間の田口が一人寂しく駐輪所に現れた。
差し詰め一人で昼食でも食べに来たのだろう。左手にビニール袋が見える。
だが、田口はこちらにまっすぐ歩いてくる。目の前で立ち止まると、ガサガサとビニール袋から瓶を取り出した。いちごジャムだった。
―う、嘘だろ…
最悪のことが頭をよぎった。
次の瞬間にはそのことが現実となっていた。
―お…ふうう
田口は顔中に、いやサドル中にジャムを塗りたくった。
「渡辺~、お前のことは絶対に忘れないぞ」
ベロベロとサドルを嘗め回す。故人を思いながら、JKのサドルを嘗め回す。
―こいつ、まじか。たまに一人で駐輪所に行っていいたのは知っていたのだけども…
「アズサちゃ~ん」田口はジャムを追加しサドルを嘗め回す。
―それただの変態やからな。最初から最後まで。
田口は手を合わせ神に感謝するとビニール袋片手に駐輪所を後にした。
今日一日色々なことがあった。幸せな転生を遂げたと思っていたのにそれは地獄の毎日の始まりなのかもしれない。言うならばブラック転生先なのかもしれない。
学校が終わるチャイムが聞こえた。生徒たちが続々と駐輪所に現れる。
「は~、今日も疲れた…」
ふわりといい匂いと共に視界が白になった。柔らかい感触。
俺はこの瞬間嫌なことは全て忘れた。誰もが羨む願望を体現してしまったのだから。