クールでドライな女

文字数 2,587文字

 私は、このクラスの学級委員長にして、学年で3位内に入る秀才である。
 その私に・・・。

 クールアンドドライ、それが私のあだ名だ。
意外と気に入っている。私は学問が好きだ。
 将来は有名大学に入って、そして沢山の事を学び、それからそれなりの仕事に就こうと、考えている。
 従って恋愛など眼中にない。私の母と父は、やはり厳格で学歴も高い。
 だから彼らが家で、いちゃついているとか、そんな雰囲気すら見せた事が一切ないのだ。

 私は思う、結婚とは残務整理、いや事故処理なのではないかと。お互いに激しく求め合った結果、それを処理するのが結婚なのだから。
彼らは家庭という事故処理を行っているのだ。
 などと言えば、まるで血も涙も感情すら無い、ロボットの様な女だと思うだろう。

 私だって普通の女子高生並の、思春期と言うものを現在体験している。
 確かに男性に興味が湧くが、私の回りの男共の程度の低さには、参ってしまう。
 特にあのイケメンぶった遊び人には閉口する。そして、他は有象無象、枯れ木も山の賑わい、黒い塊、物体でしかない。

 性欲に溢れ唯、唯、女性の話をいやらしく話すのみの、アホ共だ。
 にもかかわらず、にもかかわらず、にだ!
その黒い物体の一人が、私にラブレターなどを投げ込んだ。私の下駄箱は目安箱ではない!
 しかも字が汚い、更に誤字脱字だらけ。
私は思わず赤ペンで添削してしまった程だ。

 そんなアホが、身の程知らずにも、私にラブレターもどきを送るとは。
何とも侮辱、屈辱、こんな事が他の女子に知られようものなら、何と言われるか・・・。
私は目眩がした。
 だが彼奴らにも良識の欠片があったようだ。
名前を書いていなかった。
 よし!そこだけは認めてやろう。
文書は可もなく不可もなく。唯の感情の羅列だ、詩の一つでも書いて寄越せば、それなりの対応も出来るものを。頭の中は未だ小学生並と判断した。

 そのアホが、私の事を好きだと言うのだ。
困ったものだ。次のラブレターが、もし来て、他の女子に見付かろうものなら・・・。
 考えただけでも恐ろしい。
私は何とか犯人を見付けて、こっ酷く痛め付け・・・、いや叱る・・・。
うーん、兎に角、何とかしなければならないのだ。

 まさか名前を書き忘れたのだろうか?
その事すら気が付いておらず、私が無視をしていると思ってはいないだろうか?
まさか!まさか!
ストーカー行為に及びはせぬか。
 まずい、まずい展開だ、何とか犯人を。
やはりこれは、あの嫌でクソなイケメンもどきを問い詰めるか。
このクラスでは恋愛に関して、男子から1番の信頼を得ているようだ。
 奴の介入も疑わしい・・・。よし、と私は、

「ねぇ〜、ちょっと話があるんだけど」
 
と私は、普通使っている常識的な女子高生言葉で話し掛けた。鳥肌が立った、寒気までしてきた。我慢しろ我慢だ。お前は、クールアンドドライなのだ!

「何だい冷干女子?」

「霊感ってあんた・・・」

「あはは、だって、クールアンドドライだろ。だから冷たいと干物で、冷干女子」

「アハハ、面白い事を言う・・・わね」

「用件言えよ、女子の嫉妬の眼差しが辛いから」

と回りを見れば。確かに他の女子達が睨んでいた。
 大丈夫だ皆、こんな男興味無い!と叫びたかったが。ニッコリ笑顔を振り撒くと、

「私にラブレターを送った輩・・・人がいる、みたい、・・・誰だか知ってる?」

ああー!鳥肌が!

「ふん、やっと来たか」
 
 何?!こいつなのか?!
私は一瞬殺意が芽生えた。
私は自立した女を目指している。
だから、格闘技大西流柔術を学んでいるのだ。
その腕前、免許皆伝だ。
大抵の男なら秒殺出来る。
いや既にこの男3回死んでいる。
 
「あなたなの・・・」

「いいや・・・」

私は冷や汗をかいていた。
 もしこの男なら、他の女子の手前。簡単にはふれない、一応付き合うフリをして、大喧嘩をして別れ。

「全然合わなかったわ」
 
と言い訳をしなければ、ならないだろう。
 まったく、こいつでなくて良かった。
無駄な徒労をしなくて済んだ。

「誰なの?」   

私は顔を近付け小声で聞いた。すると、

「鮫川(さめかわ)」

と言った。
ア然!誰だ?知らない・・・いや、知ってはいるが、そんな輩がいたとは。クラス員なのだから。
 だが顔が浮かばない。真っ黒な塊の1つだとは認識はしていたが。

「本当の事を言おうか・・・」

「何が?」

で、鮫川らしき男が走り込んで、私達の間に乱入した。
 危うく秘伝技、手詰りで鮫川の首を折るところだった。奴の顔を見て思い出した。
 可もなく不可もなく、完全なる背景男子。
特徴をあえて言えば・・・、特徴の無い事だ!
奴は何処にいた?聞いていたのか会話を。
 そうか、背景男子の特質。居ても気付かなかったのだな。
 惜しいその能力、格闘技に生かせば、良いところまでゆくものを。と思ってニヤリと笑うと。

「付き合って下さい!」

と手を差出した。 
愚か者!人前で、とも思ったが。
 ここは私のクールアンドドライを返上して。私の内申書に、少しばかり色を付ける為にも。

「友達だよ」
 
と握手した。

『えええーーーーっ!!!』

クラスがどよめいた。
 まるで歴史が変わったかの如く、山が動いたかの如く。
 隣からも、何だ何だと見に来るほどだった。
それほどか!?
 顔を真っ赤にした鮫川・・・。
名前負けの典型例だ。どう見ても草食系、いやむしろ植物男子だ。いやそんなにも良くない。花も咲かないのだから。

 そうだ水辺の生き物。おたまじゃくし?メダカ?そんなにも可愛くない。アメンボウ?いやこいつは、水溜りや池で蠢くボウフラだ。
あはは、上手い!ボウフラ男子め。
と私が、一人ニコニコしていると。

「やったなぁ!鮫川!」

と男子共が騒いでいた。
 女子もあの人が・・・。と私の事を噂していた。
 まあ、私の本心など分かるはずもないが。
 それから鮫川、付き合って下さいと勝手な事を言っておいて。メールはおろか、ラインすら教えず、私は放置され続けた。
何とも腹立たしくなり、日曜日、奴の家へ殴り・・・、怒鳴り込んで。
無理矢理、連れ回してやった。
まったくボウフラ男子早く羽化しろ、あはは。

 その時鮫川は

「間違って、ラブレターを渡したとバレれば、殺される」

と思ってたそうな。
 そして世紀の珍事は、大学2年まで続き。
後にクールアンドドライ女子は、

「あれは、私の黒歴史だ」

と、その事を話したがらなかったそうな。

お仕舞い。
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