僕の親友

文字数 2,295文字

 信じていた親友は、僕を裏切った。彼の名前は拓真。拓真は人一倍正義感の強い少年で、いじめられっ子だった僕をいつも助けてくれた。人を傷つけるのは最大の罪だ。これが彼の口癖だった。そんな彼が突然、僕を無視し始めた。何も話してくれず、目が合えば睨まれた。それだけでなく、すれ違うと肩をぶつけられ、机や椅子を蹴り飛ばされることもあった。僕はどうにか拓真に元に戻ってほしくて、声をかけ続けた。理由だけでも話してほしかった。そうしてどのくらい経っただろう。土砂降りの雨だったあの日、拓真はやっと僕と目を合わせた。ああ話してくれるんだ。そう思った。しかし次の瞬間、拓真は僕の首にかかっていたネックレスを引きちぎって窓から投げ捨てた。そのネックレスは、祖母の形見であり、拓真もそれを知っていた。この時、僕の寂しさや悲しみは、怒りと憎しみに変化した。
 翌日登校すると、クラスメイトの海斗に声をかけられた。その手には昨日拓真に投げ捨てられたネックレスが握られていて、それは綺麗に直されていた。
「圭太くん、昨日僕見てたんだ。拓真がこれ、引きちぎって捨てたとこ。僕なりに直して見たんだけどどうかな。」
張りつめていた感情が緩むのを感じた。海斗は続けて言う、
「ねえ、最近拓真くんとなんかあったの?おせっかいかもしれないけど、よかったら話聞こうか?」
嬉しかった。その日の放課後、僕は海斗に全てを打ち明けた。海斗は何も言わず、ただただ話を聞いてくれた。ずっと苦しくて緊張していた心が解けていった。話が一段落した頃、海斗が口を開いた。
「それは大変だったね、、、。それにしてもさ、ひどすぎない?本当頭にきちゃった、、、。」真剣な目でまっすぐ僕を見つめ海斗は言った。
「ねえ、ちょっと仕返ししてやろうよ。僕にいい考えがあるんだ。」
「仕返し、、、?」
僕が答えを出すのに時間はかからなかった。その翌日、クラス全員の携帯に、拓真が僕の机をカッターでズタズタにしている姿を映した動画が送信された。海斗が撮ったのであろうその動画には「拓真は最悪ないじめっ子。粛清するべき。」とのメッセージが添えられていた。
 その日から拓真はクラスの敵になった。粛清と称し、拓真の権利や居場所は徹底的に奪われていった。その指揮を執ったのは僕を含めた海斗たちのグループだった。
 ある日の放課後、教室には机に書かれた落書きを消している拓真の姿があった。その肩は小さく震えているように見えた。僕が教室に入ると、拓真は怯えた目をして僕を見上げた。何かを訴えかけるような拓真の表情に動揺した。その気持ちを振り払いたくて、僕は拓真の腹部に蹴りを入れた。
「お前昔から人を傷つけるのは最大の罪だって言ってたよな。じゃあ僕をいじめたお前は最大の罪人だな!粛清されて当然だ。」
よろめき、倒れこむ拓真にそう言い放ち、僕は教室を後にした。後ろからは拓真が消え入りそうな声で僕を呼ぶのが聞こえていた。
 翌日から、拓真は学校に来なくなった。僕は変わらず海斗たちとつるんでいた。しかしある日のこと、彼らの態度は豹変した。
「拓真が来ないんじゃお前とつるんでる意味ないんだよね。」
唐突に海斗が言った。きょとんとする僕に対し、彼は続ける。
「拓真がなんでお前をいじめ始めたか知ってる?実はさ、俺たちが命令したからなんだよ。最初は絶対やらないって言ってたんだけど、これ見せたの。お前が万引きしてるフェイク動画。よくできてるだろ?んで、お前がいうこと聞かなかったら万引き動画がネットにあがって圭太君は一生悪者として過ごすことになるって脅したらすぐおとなしくなったんだよな。」
、、、へ?何をいってるんだ、、、、?早くなった鼓動が体中にを伝うのを感じた。
「あーあと、あのネックレスも、俺らが取りに行かせて直させたんだぜ。あいつ雨の中草むらを必死で探し回って、泣きながら直してたんだよ。まじうけたわー。」
うそだ、うそだ、、、、!!僕はとうとう呼吸の仕方もわからなくなって教室を飛び出した。拓真は僕を裏切ってなんかいなかった。僕を守ろうとしてたんだ。なのに僕は、、、最低だ。
 真実を知った僕は、無我夢中で拓真のマンションへと走った。近くまで来たとき、屋上に拓真がたたずんでいるのが見えた。僕は必至で屋上へと駆け上がった。あと数秒遅れていたら拓真は落ちていただろう。僕は寸前で腕を捉えた。狂ったように目を見開いた顔で拓真は僕を見上げた。そして、やつれきった顔で彼は言う
「もう生きていたくない。辛すぎるんだ。圭太の言う通り、僕は親友をいじめた大罪人だ。守りたいものを守れない弱いやつだ。」
違う。そうじゃない。悪いのは僕だ。僕はなんとか拓真を引き上げ、そのまま強く抱きしめた。
「本当のこと、全部聞いたんだ。動画のこともネックレスのことも全部。拓真、君は最後まで僕を守ってくれた。それなのに、、、最悪なのは僕だ。お前を裏切って傷つけた。ごめんなさい、ごめんなさい。」しゃくりあげて殆ど言葉にならなかった。拓真の顔を見るのが怖かった。少し間があってから拓真はゆっくり話し出した。
「そうか、、、聞いたのか。」
その声色には安堵が滲んでいた。そのまま拓真は続ける、
「ごめん、僕どうしたらいいか分からなくて、、、。本当におかしくなりそうだったんだ。圭太、来てくれてありがとう。もう少し遅かったら僕はいなくなってた。何も解決できないまま、圭太に一生の傷を負わせてしまうところだった。これから、、、またもとに戻れるよね?」
「当たり前だよ。」
「よかった。」
恐る恐る僕は拓真の顔を見た。久しぶりに合わせたその目は優しくあたたかかった。

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