第1話

文字数 1,763文字

三大ブス市、そこはどこかと尋ねたら、名古屋、水戸、仙台の三都市。そのせいにしてしまうと生まれ故郷に申し訳ないが、私自身もブスのたぐいに含まれる。名古屋に住む父親と母親のかけ合わせが悪かったようだ。
 腫れたような一重まぶた。ヒラメのように離れ、にらんでいるような細い目。顔の中央には取って付けたような大きな団子っぱな。小鼻は威張ってあぐらをかいている。唇は厚く、閉じていると大きなたらこがくっついているようだ。笑うと歯茎があらわになり、奥歯まで丸見え。一目で歯並びの悪さがばれてしまう大きな口。心配した親が歯並びの悪さを見かねて歯列矯正を進めてくれた。しかし、歯医者と聞いただけでジンマシンが出るほどの医者嫌い。
「大丈夫。こんな歯でも虫歯は一本もないから。」
と、歯列矯正をしなかった。
まだある。あごがしゃくれているのだ。そのため中学生時代に誰がつけたか、ついたあだ名は“しゃくれタラコ”。私の顔の特徴をよく捉えていると自分でも納得してしまう。
「座布団一枚!」
と言いたくなるが、自分のことだと思うとそんなことも言っていられない。でもそのあだ名を最初に聞いたとき、“ああ、目と鼻をいじられなくて良かった”と安堵していた。だから中学生の時は女子が恋バナをしていても自分はそんな話に興味はないふりをして、その輪に入らなかった。しかし心のうちはやはり乙女。一字一句聞き漏らすまいと耳がダンボになっていた。
 風貌は、その人の性格までも変えてしまう。もちろん私の場合、良くなるわけはない。卑屈になるに決まっている。自分の容姿は親のせいと親を恨んだものだった。健全なる精神はブスには宿らないのだ。そんな私は段々と同級生とも話をしなくなり、一人さみしく席に座って本を読む。そのためか知識量だけは人並み以上に増え、成績もトップクラスになった。高校受験でも学力レベルの高い学校を受験し合格した。
高校生活では恋愛禁止のハイレベル髙。それがとってもありがたかった。わき目も振らず、ひたすら勉強に専念できた。そのおかげで誰もが聞いたことのある日本でも指折りの大学に入学。花も恥じらう18歳は親せき縁者にお祝いをもらうたびに、
「偉かったね。頑張ったね。」
とは言われるものの、
「可愛くなったね。きれいになったね。」
とは誰一人として言うものはいなかった。その時私は決めたのだ。“私には恋愛などはいらない。学問に生きよう”と心に誓い研究に没頭した。
しかし神は、そんな私にも運命のいたずらを仕掛けた。“チビ、デブ、ハゲ”の三拍子が見事にそろった研究室の先輩に告られたのだ。
「どうして私なの?運命って残酷!恋愛という言葉を捨てた私にも試練を与えるのか?」
そう思いながら、恋愛に免疫のない私は、見た目の悪さ日本一の先輩との初めての恋愛に酔った。言っておくが、必ずしも先輩に酔ったわけではない。しかしデートを重ね、とんとん拍子に話が進みウェディング・ベル。
 二人とも、高学歴ゆえの高収入。ダブル・インカム・ノーキッズ。収入過多の贅沢三昧。夢のような生活が続いた。しかし結婚半年で異変が起きた。妊娠したのだ。
「神様、どうかお腹の赤ちゃんは男の子を…。男ならどうにかなる。いや、どうにかなるだろう。」
そんな願いもむなしく生まれてきたのは女の子。
「おお、神よ!どこまでも意地悪な神よ!」
そんなことを言っても無駄だとわかっていながら、女の子を授けた神を恨む。決して自分や夫の遺伝を恨まない勝手の良さ。私は美人やかわいい子がずいぶん得をしていると散々思わされてきた。頭が悪くてもいいから、せめて人並みの見栄え・容姿をと望んだ私がバカだった。生まれてきた女の子は夫そっくりなへちゃむくれ。
この子も成長するにつれブスだと自覚したとき、自分を生んだ親を恨むんだろうと思うとやりきれなくなる。それは私の歩んだ道でもあるからだ。この子の行く末を案じる私だった。
“歴史は繰り返す”のことわざ通り、“ブスも繰り返す”のだ。この子がいつかそれを自覚したとき、苦悩が始まるのだ。
“苦悩を突き抜け歓喜に至れ!”と言った音楽家がいたそうだが、見た目、容姿でお笑い芸人にでもなれというのか?それこそ我が家は見世物小屋になってしまう。
 最後に一つ聞きたい。“神様、ブスは罪なのですか?それとも罰なのですか?”
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