インコとフクロウのミックスでサイダーのブレンド

文字数 2,000文字

 パシャっとシャッター音がした。
 ポッチャは右翼を(ひるがえ)してポーズを決めた。
「珍しいな。俺を撮るなんて」
「課題で提出するの」
 学校で使うタブレットを手に返事をする楽美(ラミ)。ポッチャは飛び上がった。
「面倒なことになるぞ!」
「写真は喋らないし。平気でしょ」
「パパさんのカメはどうだ?」
「違うよ。ユートピアを撮るの」
「なんだって?」
「どこにもない場所。テツガク〜って感じ」
「広まったらまずいぞ!」
「ーーやっぱり未来から来たから?」
 ポッチャはくわっと(くちばし)を広げ、身体を揺らした。
「おいおい、おいおいおい。あははははっ」
「わかりやすすぎ。ミョーちゃんの言うとおりだったね」
「勘のいい子だったな」
「ロボットなんでしょ」
 余裕たっぷりに肩をすくめるポッチャ。
「悪いが秘密道具は出せないぜ」
 むっすりと、楽美は視線を逸らした。
「きっと事情があるから。普通じゃないってパパもママもわかってるけどさ、そっとしといてくれてるんだ。けど言う。だってポッチャ、いつか勝手にどこか行っちゃうってわかるから」
「まさか、はは」
「8年も一緒だよ? 昔はどこに行くにも付いてきたのに、着替え始めると部屋を出ていくし。スマホに触らなくなったし」
 少し迷って、ポッチャは翼をたたんだ。
「そうさ、俺は未来から来た。ある時、人類の文化の大半が失われたからだ」
 楽美は身構えた。
「それってーー」
「隕石だ」
 ああっと息を吐く楽美。
「世界大戦かと思ったぁ」
「津波や気候の変化で多くの歴史が失われた。電力事情や避難と復興のための計算が優先されて、デジタルデータも6割以上を消去する事態になったんだ」
「ってことは、ポッチャは隕石から地球を守るんだね」
「起きてしまったことは変えられない」
「そういうルール?」
「不可能なんだ。時間遡行が可能になった時、歴史を変えようとすると必ず失敗することが判明した。俺が頑張っても隕石を逸らしたり完全に消滅させることはできないだろう。技術力を高めようにも、限界はある」
「じゃあなんで過去に?」
「未来人は本気でユートピアを目指している。そのためには過去の情報がたりないんだ」
「待って。ポッチャには過去だよ。でも、私にとってはまだ未来じゃん。なのに未来の人から見れば全部決まっていることなの? なにそれ」
「あくまで当人から見て過去は変わらないってことさ。未来は本人の決断と行動の賜物(たまもの)だ」
「ポッチャはこの先のこと知ってるの?」
「わからない。ほとんど情報がないから。楽美がしゃべる鳥と暮らしていたことしか残っていないんだ。俺の仕事はこの時代の情報を未来に送ること。まぁ、過去から未来へは難しい。情報を集めて整理して、少し後の時代にやって来た未来人に託す。楽美の一族が奇妙な鳥について語り継いだようにな」
「それなら、ポッチャの情報もあるんじゃないの?」
「残る情報は少ないから、個人的なことは残さない。結果こんな姿になった」
 様々な記憶が蘇って楽美は吹き出した。
「インコにしてはデカすぎるし、オウムでもないもん」
「楽美系統の情報だけが手がかりだった。サーティワンに並んでそうな頭という文言を解読するのも大変だったぞ」
「ポッチャには過去は決まってることなんでしょ? 適当でいいんじゃない?」
「たとえば犬の姿で行こうとすれば事故や病気で失敗するリスクが高まる考えていい。ポッチャは存在するが、それが俺という確証はないんだ」
「危な。で、ポッチャは人間だってことだよね。本当の名前は?」
「それは言い伝えられていないからよそう」
「なんで。誰にも言わないよ?」
「あまり未来の者が干渉しないほうがいいだろう」
「いまさら? あんなに宿題手伝ってくれてたのに」
 ポッチャはよろめいた。
「うっ!!」
「大丈夫だよ。未来は変わらないんでしょ? 内緒にするし、みんな鈍感でいてくれるから」
 するとポッチャは目を潤ませた。
「すまないな」
「食事代はモデルで稼いで」
 ポッチャは羽を擦り合わせた。
「ユートピアをテーマに俺を撮るとは、なんだか照れるなぁ」
「手配写真にしようかなって」
「心配無用だ。未来には帰れないから」
 楽美はアプリの操作をやめた。
「……じゃあ、ちゃんと撮る。課題どころじゃない。みんなのカメラで撮る」
「待て待て。こうして順調に仕事できているんだ」
「ポッチャは家族いるの?」
「いるぞ」
「友達だって、仕事の仲間だって、ポッチャのこと心配してるはずだよ」
「そうかもしれないが」
「古い蔵とか海外とか、どっかから古いヤツが見つかる時あるじゃん! 失敗して失われるのは情報だけ。だったらやろう! いろんなルートで遺しておこう! ポッチャが旅立った時よりも後の未来に!」
 ポッチャが羽ばたいた。
「ユートピアに行くにはどうしたらいいか知っているか?」
「ううん」
「一人一人が自分の理想郷を想像できるようになることだ」
「簡単じゃん!」
「よーし! 最高のライフログを届けようか!」
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