始発の電車を待っていたら、そこには怪人がいたそうな

文字数 1,994文字

……眠い。

失敗しちゃったな、始発までけっこう時間あるし……。

仕方ない、ネットニュースでも……
近年、人間を襲う怪人と呼ばれる生き物が増加しています。そんな中、ヒーロートップを飾るパラディン・アーサー氏は、昨日も関東全域の怪人撲滅に成功しました。アーサー氏は、「怪人は徹底的に排除する、全員まとめてかかってこい!!」と述べており……
……凄いなぁ、アーサーさん。
(凄いけど、そこまでする必要……)
……あれ?
……。
……。
……。
……あの、すいません。

どうかされました?

えっ、あ、えっ!?

あ、その、始発を待っているんですけど、いつ来るのかなって……。

始発はまだですね。

あと、20分ぐらいでしょうか。

あ、そ、そうなんですか。

始発って、日の出とともに来るかと思ってた……。

たしかに始発って言うと、そんな印象ありますよね。

……あの、私に話しかけて大丈夫なのですか?

私は、その、見ての通りあれですので……。

あぁ、怪人ってことですか?

別に、気にしませんよ。全ての怪人が悪者なんて、思ってませんから。

そんな……、危ないですよ?

たしかに私はあなたのことを襲うつもりはありませんが……。

だって、電車を待ってる怪人が危ないはずないじゃないですか。

危ない怪人だったら、人を見つけた時点で襲ってますって。

そ、そうかもしれませんが……。
そういえば、怪人さんは始発に乗って何をしに行くんですか?
えっと、そ、その言いにくいのですが、ヒーローに挑もうかと思いまして……。
あ、そうだったんですか……。
……やっぱり、止めますか?
止めるというか、その危ないなぁって……。

ほら、この記事見てくださいよ。

……アーサー。
最近は暴力的なヒーローが多いから、挑みになんか行ったら返り討ちに逢っちゃうんじゃないかって……。
……たしかに、強そうですね。

でも、戦わないと……。そのために今日まで修行してきましたし……。

そうなんですか、きっと色々と事情があるんですね……。
深くは聞きません。

応援してます、頑張ってください!

あ、ありがとうございます……。
……その、一つ聞いていいですか?
はい、なんですか?
その、なんで怪人の私を応援してくれるんですか?

人間のあなたが……。

……なんでしょう、怪人を応援するというよりも、ヒーローを応援する気になれなくて。

怪人を倒すことが正義ってスタンスがどうも……。

そうなんですか。
少し、過激だと思っちゃうんです。

暴れる怪人だけ懲らしめればいいのに、

わざわざ全ての怪人を倒す必要は無いんじゃないかなって思ってしまって。

まぁ、そうですかね。

でも、見た目が見た目ですし、仕方の無いことかなって……。

それは、差別じゃないですか。

あなたのような優しい怪人もいますし。

……なんて、何もしてない僕にヒーローを批評する資格は無いんですけどね。

でも、幼馴染を見てたからどうも。
幼馴染?
はい。幼稚園からの幼馴染で、かっちゃんってやつがいたんですよ。

僕が達哉で幼馴染が勝也、2人合わせてかっちゃんたっちゃんなんて。

かっちゃん、たっちゃん……。
かっちゃんは、大人しいけど凄く正義感の強いやつで……。

昔からヒーローになってみんなを守るって、頑張ってたんですよね。

しかも凄いのは、「僕は人間も怪人も守る!」って言ってて。

正義に人も怪人も無い、僕はそんなかっちゃんを尊敬してたんですよね。

そうなんですか……。

かっちゃん、きっと凄いヒーローになってますよ……!

もうずっと会ってないし、どうかなぁ。

個人的には、かっちゃんには昔のままでいて欲しいかな。

……大丈夫ですよ、きっと。
1番線に電車が参ります……
あ、そろそろですね。
あ、本当ですね。

では、私はここで……。

え、乗らないんですか?
あ、乗りますけど扉からは乗りません。

文字通り、電車の上に乗って……。

あ、そっか。普通に乗ったら通報されちゃうかもしれませんね。

振り落とされないよう、気をつけてくださいね。

あ、ありがとうございます。
……クスッ。

……どうか、されましたか?

いえ、ふと思い出しちゃって。

かっちゃんも、「始発は日の出と一緒に来るんじゃないの!?」

って言ってたなぁって。

き、奇遇ですね。

意外と、かっちゃん……、勝也さんとは気が合うかも、しれないですね。

ですね!

もしも、かっちゃんがヒーローをやっていたら、仲良くしてくださいね!

はい、もちろん!
……では、そろそろ行きますね。
はい、頑張ってください!

くれぐれもお気をつけて!

お気遣いありがとうございます。

行ってきます!

1番線、ドアが閉まります……
……びっくりしたぁ。まさか、たっちゃんに会うなんて……。

実は僕が怪人だったこと、バレてなきゃいいけど……。

……。


 

しかも凄いのは、「僕はヒーローも怪人も守る!」って言ってて。

正義に人も怪人も無い、僕はそんなかっちゃんを尊敬してたんですよね。


 

…………。
(たっちゃん、ヒーロー目指して、もうちょっとだけ頑張るね。)
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