第1話

文字数 1,639文字

 ちいさなむらに、やさしいとひょうばんのむすめがいました。
 そのちいさなむらのひとたちは、ちかくのもりによくいきました。きのみをとったり、たきぎのためのかれえだをとったりするためです。
しかし、もりにはいじわるなこびとがすんでいました。むらびとたちがもりにはいると、おそろしいばけものにばけて、こわがらせるのです。
 それをきいて、やさしいとひょうばんのむすめがめずらしくおこっていいました。
「わたし、もりにいって、いじわるなこびとに『みんなをこわがらせるのはわるいことよ』っていってくるわ」
 むらびとたちは、むすめのそのゆうきにおどろきました。

 むすめがもりのおくふかくまでくると、バサバサッとおおきなとりがとんできました。
 あたまのうえにつのがはえた、おそろしいばけもののとりです。
 しかし、むすめはそのとりにむかっていいました。
「あなた、こびとがばけてるんでしょう? わたし、ぜんぜんこわくなんかないわ」
 すると、パンッというおとといっしょにとりはきえ、こびとがあらわれました。
「ふんっ。こわくないなら、つまんないや」
こびとはくやしそうにいいました。
「みんなにいじわるするのはよしてちょうだい。どうしたら、いじわるをしないでくれるのかしら?」
 むすめがききました。
 こびとはすこしかんがえて、ポケットからちいさなたねをひとつとりだしました。あかくぶきみにひかったたねです。
「このたねをまいて、みをならせたら、おまえのいうとおりいじわるをしないよ。そのかわり、できなかったらもっといじわるしてやる」
 こびとはニヤッとわらっていいました。
「わかったわ」
 むすめはそういうと、いえにかえってにわにたねをうえました。

 つぎのひ。
 にわに、あのたねのめがでていました。
そして、そのめがくちうるさくもんくをいっていました。
「のどがかわいた。カラカラだ。だれか、どうにかしておくれ!」
 そのこえはこびとそっくりです。
「あら、それはたいへんね」
 むすめはたっぷりのみずをかけてやりました。

 また、つぎのひ。
 そのひはザアザアあめがふっていました。
「こんなにぬれちゃ、かぜひいちゃうぞ。へへ、へくしょん! だれか、どうにかしておくれ!」
 めがのびてちいさなきになって、いっているのです。
「あら、それはたいへんね」
 むすめはかさをさしかけてあげました。

 また、べつのひ。
 そのひはとてもあついひでした。
「こんなにあつくちゃ、かれちゃうぞ。だれか、どうにかしておくれ!」
 ちいさなきはちょっとおおきくなって、もんくをいいました。
「あら、それはたいへんね」
 むすめはうちわであおいであげました。

 あきになり、すこしさむくなると、
「こんなにさむくちゃ、ごごえちゃう。だれか、どうにかしておくれ!」
 とてもおおきくなったきがいいました。
「あら、それはたいへんね」
 むすめはじぶんのマフラーをそっとまいてやりました。

 ふゆになると、きはしずかになりました。
 ひとこともしゃべりません。
 むすめはしんぱいして、まいにち、きにみずをやったり、マフラーをまきなおしたりしてやりました。

 ゆきのひ。
 いちめんまっしろななか、きがおおきなまっかなみをつけました。
「まあ、すごい!」
 むすめはそのみをもいでたべました。
 それはびっくりするほどおいしいみでした。
 みはまいにちたくさんなります。
 それに、きってもきってもえだがはえるので、それをたきぎにすることもできました。
「あのこびとにおれいをいいにもりにいかなくちゃ」
 むすめがつぶやきました。すると、
「もりにいかなくても、おれはここにいるよ。ずっとここでみてたんだ。おれはほんとうはきのようせいなんだ。もりはきけんだから、むらびとたちにきてほしくなくていじわるをしたんだ」
と、きからこえがしました。そして、きは、
「きみのゆうきとやさしさにかんどうしたよ。ありがとう」
といいました。
 それからというもの、こびとのきとむすめはむらびとたちにすえながくあいされました。 
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