第8話 ぼくのプレゼント

文字数 1,202文字

 最近のメメちゃんは、クリスマスのことなんて忘れたようにサン太に構ってばかりいる。父さんと母さんだってサン太には甘く、昨日なんてお酒なんか飲ませてた。
 こいつ、年が変わる前に修行をすませる気なんてないんじゃないの。もう十二月も半分過ぎたし。
 ぼくは、なんだか気に入らなかった。
 せっかく考えてたメメちゃんへのプレゼントだって、もう……。
「もうメメちゃんへのプレゼントなんて、そのダルマでいいんじゃないの」
 思わずぼくは家族みんなの前でそう言ってしまった。父さん、母さん、メメちゃん、そしてサン太がいっせいにぼくを見る。
 ぼくはちょっと後悔しながらも続けた。
「サン太、ずっといるつもりなら、ぼくの代わりにうちの子になっちゃえば?」
「おい、ノゾミ……」
「ノゾミくん、どうしたの?」
 父さんと母さんはそれぞれ困った顔をする。そして、メメちゃんは、
「う……にーちゃん、怖い」
と、泣きだしそうになってしまった。どうしよう。
 メメちゃんを泣かせたくなかったぼくが、メメちゃんを泣かせてしまうことになるなんて。 サン太がメメちゃんに近付く。ああ、涙を浴びにいったんだな、と思ってぼくは止めなかった。
 でも、そうじゃなかった。
「泣くのをやめるのじゃ、小娘。ちょっと早いが、アレを持ってくるのじゃ」
 アレってなんだ? メメちゃんはこくんとうなずくと、目をこすり、何かを取りにいった。父さんと母さんもリビングでごそごそし始めた。何をするつもりなんだろう。
「はい、ノゾミ。ちょっと早いけどメリークリスマス!」
 父さんがぼくに新品のグローブをくれた。
「今度はキャッチボールで対戦しようぜ!」
「私からは、これ」
 母さんからは手作りクッキーの入った袋をもらった。
「クリスマスのケーキもお楽しみに」
 にっこりと母さんが微笑んだ。
「ど、どうして……」
 ぼくは目をぱちくりさせた。今まで、ほしいものを買ってもらったことはあるけど、こんな風にいきなりプレゼントをもらったのは初めてだ。
「ノゾミがうちの子じゃなくなったら嫌だから早めにあげるんだぞ」
「いつもメメちゃんのめんどう見てくれて、ありがとね」
 母さんがぼくの頭をぽんぽんと撫でる。う、嬉しい……。
 ちょっと照れくさいけど。
「メメちゃんは……?」
 ぼくは振り返る。
 そこには、メメちゃんが大きな画用紙を持って立っていた。
「にーちゃん!」
 メメちゃんは画用紙を広げた。クレヨンで、紙をはみ出すくらい大きな人の顔が描かれている。これって、もしかして、ぼく?
 絵の周りには、「のぞみにーちゃん」と文字が元気いっぱいに書かれている。
そうか、メメちゃん字が書けるようになったのかぁ……。

 ぼくの目から、つーっと涙がこぼれた。

 ぽとり。
 ぼくの足元で待ち構えていたサン太の左目に、ぼくの涙が落ちた。
 サン太の白目に、黒色が浮かび上がってくる。
「おおー……」
 ぼくの嬉し涙で二つ目の修行が終わるとは。
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