第1話 非常ドア

文字数 352文字


「火事だ!」



 映画館で突然聞こえた叫び声。

 一瞬にして場内はパニックになった。



 鼻孔を刺激する煙の匂い。

 見る見るうちに煙が充満し、視界が閉ざされていく。



 出口、出口はどこだ!

 悲鳴と怒号が交錯する中、俺は誘導灯の明かりを頼りに非常ドアへと走っていった。

 そしてドアに手をかけようとしたその時だった。






「………………へ?」

 突然非常ドアが走り出した。

 後に残ったのは無情な壁。

 何が起こったのか理解出来ぬまま、俺は走り去っていく非常ドアに向かって叫んだ。

「おいっ、おいっ!行くな!助けてくれ!」

 俺の叫びに反応した非常ドアが、走る速度を緩めることなくこう言った。




「どや、非情なドアやろ」




「ドアホッ!ひじょう違いじゃボケッ!」

 俺たちの叫びを無視して、その「非情」ドアはケタケタと笑いながら走り去っていった。
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