第8話 暗闇の殺人

文字数 1,819文字

 ピピピピ……。ピピピピ……。
 その音に真は目が覚めた。
 その音のする方に、薄目開けて視線を向ける。
 この部屋の目覚まし時計が鳴っていた。
 真は徐に目覚まし時計を止めた。
 時計の針は三時を指していた。
 何だよ。せっかく熟睡していたのに、と思っていたのだが、丁度トイレに行きたかったので、ドアを開けようしたら、ドアに紙切れが挟んであった。
 真が手に取ってみると、
 『未解決事件の真相がわかった。俺の部屋で話したいことがある。午前二時半に来い。池田』
 と、書かれていた。
 真は一気に青ざめた。確認のためにポケットから自分のスマートフォンを取り出す。
 やっぱり、三時だった。
 しまったと思って、すぐさま隣の部屋に行った。
 小さくノックをして、真は「池田さん」と、声をかけた。
 しかし、返事はない。
 真はドアのノブに手を掛けた。ゆっくり回すと開いた。
 しかし、部屋の中が暗くてよく分からない。
「池田さん。ちょっと電気付けますね」
 と、ドア付近に、電気のスイッチをONにした。
 部屋の明かりが付いて、真は信じられない光景を目の当たりにした。
 そこには天井から首を吊っている池田がいた。
「うわあああ!」
 真は驚いて腰を抜かしてしまった。
「何じゃ」
 と、登坂は寝間着姿で、杖を突きながら、自分の部屋を開けた。
「何だよ、こんな遅くに」
 椎名もメガネを掛け、目を擦りながら、部屋のドアを開けた。
 廊下に真が驚いている姿を見ると、二人は真に近づき、その先を見た。
「何ということじゃ」
 登坂は池田の部屋の中に入る。
「登坂さん」
 椎名も登坂に続く。
「何なの、きゃああああ」
 田中も首を吊っている池田の姿を目撃し、真と同じように腰を抜かした。
 野口も村瀬も騒ぎを聞きつけ、廊下に出たのだが、
「野口君、見ない方がいいわ」
 と、田中は青ざめた顔で言った。
 野口はそれに従ったが、村瀬はひょいと部屋の中がどうなのか顔をのぞかせた。
「いやあああああ」
 と、一番大きな悲鳴を上げた。
「みんな、そこを動くんじゃないぞ」
 登坂は池田の首を吊っているロープをほどこうとしたのだが、食い込んでいて、片手ではできそうにもない。
「登坂さん、ここは僕が……」
 椎名はポケットから果物ナイフを取り出し、首に食い込んでいたロープを切った。
 池田の身体を床に倒し、椎名が首の脈を取ると、首を横に振った。
「そんな……」
 田中は今にも泣き叫びそうな声で言った。
「ダメじゃ、死んでる……。しかし、なぜ彼は首を吊ったのじゃろう?」
 登坂は足が悪いので、椎名のようにしゃがみこめなかった。
「自殺でしょうか……」
 椎名はニヤニヤしている。君の悪い趣味だと真は思った。
「いや、池田さんは自殺じゃありません」
 真は立ち上がりそう強く言った。
「どうしてそう思うんじゃ?」
「だって、池田さんは昨晩まで未解決事件の真相を解きたかった。そんな方が、しかも良く知らない村の、誰かが住んでいる家で自殺なんかするでしょうか?」
「私もそう思うわ。自殺だったら、まるで登坂さんに恨みがあるのかと思っちゃう」と、田中。
「取り合えず、このことを警察に電話するのが筋なんじゃない?」
 村瀬は先程の悲鳴とは裏腹に急に冷静になっていた。
「ああ、そうじゃな」


「あれ、繋がらない」
 野口は一階にある固定電話から110番に掛けたのだが、プーと音が鳴っているままだ。
 真は電話線をたどってみた。途中でナイフのようなもので切れている。
「これは、誰かが……」
 真は青ざめた。
「誰がやったのじゃ」
「車で市街地まで出れば交番まで間に合う」
 椎名は相変わらずニヤニヤしている。真はその表情に何か楽しんでいるように見えた。
 登坂を置いての五人は外に出て、車の方に走った。
「良かった。車は……。タイヤが……」
 椎名は唖然とした。
「くそっ」
 野口は唇をかみしめていた。
「ちょっと、あたしの軽も、パンクしてんじゃん。高かったのにー、あり得な」
 村瀬は軽自動車を触っていた。
 もちろん、池田の車もパンクをしていた。
「ここから下山するには、さすがに難しい」
 野口はまだ、真っ暗な夜空を見ながら言った。
「ダメよ。野口君。あなたは私と一緒にいて……」
 そう言って田中は野口の腕に顔を近づけた。
 その光景を見て、真はこの二人はデキてると分かった。
 しかし、今はそんなことを考えても答えにはならない。
「仕方ない。取り合えず、戻りましょう」
 真が言って、みんな渋々車を後にした。
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