巻貝
文字数 2,000文字
一人の女が海岸を歩いていると、砂浜の上に赤い巻貝の殻を見つけた。手のひらに乗るほどの大きさだ。女は拾い上げてじっくりと眺めた。太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「何て美しいんでしょう」
女は巻貝を手提げ鞄にしまい、一人暮らしの部屋に持ち帰った。
その日の夜、女は寝室の棚に置いた巻貝を眺めながら、ベッドに横たわっている。部屋の灯りを消すと巻貝はうっすらと光を放っている。
女は暗がりの中で巻貝を手に取り耳に当てた。すると、かすかな女の声が聞こえてきた。
「あなたの願いごとを叶えて差し上げます。願いごとを口に出して言ってください」
女は驚いて耳から巻貝を離し見つめた。
「空耳だったのかしら」
女はもう一度、耳に巻貝を当てた。
「あなたの願いごとを叶えて差し上げます。願いごとを口に出して言ってください」
女は同じ声を聞き、自分の望みを声に出して言ってみた。
「豪華な生活ができるほどのお金が欲しい」
「分かりました」
かすかな声が聞こえたが、その後は何も聞こえなくなった。
女は巻貝を棚に戻し、眠りについた。
翌朝、女は携帯電話の音で目が覚めた。
「私は弁護士です。あなたの親戚が亡くなり、あなたに全財産が譲られることになりました」
弁護士の言った親戚の名前は、聞いたこともないものだった。遠い親戚だという。
女は電話を切ってから棚を見ると、巻貝がバレーボールほどの大きさになっていることに気づいた。
女は詐欺の電話かもしれないと思ったが、自分が失う財産はないので、その日の昼前に弁護士の指定した場所に出かけ、弁護士と名乗る男の説明にしがたって、書類にサインをした。
女は夕方、自分の銀行口座の残高照会をして腰を抜かしそうになった。金額の桁数を指差しで数えてみると、一生かけても使い切れない金額であった。
女は部屋に帰り、巻貝に声をかけた。
「願いが本当に叶ったわ。ありがとう」
「まだ願いごとがあれば、言ってください。叶えて差し上げます」
バレーボールほどの大きさの巻貝の声は昨日よりも大きくなっていた。昨日は気づかなかったが、声の質は自分の声を似ていた。
女は言った。
「美しくなりたい」
女は女優の名前を挙げて、その女優のような顔とスタイルにして欲しいと言った。
「分かりました」
巻貝はそう言うと沈黙した。
女はベッドで眠りについた。
翌朝女は目を覚ました。
棚にあったはずの巻貝が床に落ちていて、掛け布団を四つ折りにしたくらいの大きさになっていた。
女はベッドから出て、壁に吊るした鏡で自分の姿を見て声を上げそうになるほど驚いた。
自分が希望した女優の顔と容姿に似ているが、それ以上に美しく魅力的なスタイルになっていた。
「本当に願いを叶えてくれたのね」
女は昨日よりもさらに大きくなった巻貝に声をかけた。
「まだ願いごとがあれば、言ってください。叶えて差し上げます」
巻貝の声は、普通の人間の声と同じくらい大きくはっきりとしていた。その声は、自分の声とそっくりであった。
「素敵な男性と知り合い、結婚したいわ」
女は大きな声で言った。
「分かりました」
巻貝はそう言うと沈黙した。
女は夜が来るのが待ち遠しかった。一日中そわそわしていたが、ようやく夜が来て女はベッドに入った。
興奮してなかなか眠れなかったが、女はようやく眠りについた。
その時、ベッドの横の床にあった巻貝が少しずつ大きくなり始めた。
ベッドと同じくらいの大きさになったとき、巻貝の穴の中からゆっくりと人間の左腕が出てきた。続いて右腕が出てきて、頭が現れ、体全体が四つん這いで這い出すようにして巻貝の外に出てきた。そして立ち上がった。
出てきたのは女であった。その女の容姿は、ベッドで寝ている女とそっくりである。
巻貝から出てきた女はつぶやいた。
「やっと出てこられた。これで幸せになれる。私の期待通りの願いを言ってくれたわ」
女が這い出た後の巻貝は、元の手のひらサイズに戻っている。
巻貝から這い出た女は、巻貝を拾い、ベッドで眠っている女の頭の上に乗せた。
すると、女は巻貝の穴の中に徐々に吸い込まれていき、完全に消えた。
三日後。
巻貝から這い出た女は、美男の若者とデートで海に来ている。女は手提げ鞄から赤い巻貝を取り出した。
「この巻貝が私の夢を叶えてくれたのよ。だから海に返すの」
女はそう言って、巻貝を沖に向って思い切り放り投げた。巻貝は回転しながら空を飛び、ポシャという音と共に海面に吸い込まれて、海の底に沈んでいった。
三年後。
嵐の翌日の晴れ渡った海岸の砂浜に、赤い巻貝が打ち上げられていた。
一人の女が近づいてきて、「何て美しいんでしょう」とつぶやくと、巻貝を手提げ鞄にしまって立ち去って行った。
「何て美しいんでしょう」
女は巻貝を手提げ鞄にしまい、一人暮らしの部屋に持ち帰った。
その日の夜、女は寝室の棚に置いた巻貝を眺めながら、ベッドに横たわっている。部屋の灯りを消すと巻貝はうっすらと光を放っている。
女は暗がりの中で巻貝を手に取り耳に当てた。すると、かすかな女の声が聞こえてきた。
「あなたの願いごとを叶えて差し上げます。願いごとを口に出して言ってください」
女は驚いて耳から巻貝を離し見つめた。
「空耳だったのかしら」
女はもう一度、耳に巻貝を当てた。
「あなたの願いごとを叶えて差し上げます。願いごとを口に出して言ってください」
女は同じ声を聞き、自分の望みを声に出して言ってみた。
「豪華な生活ができるほどのお金が欲しい」
「分かりました」
かすかな声が聞こえたが、その後は何も聞こえなくなった。
女は巻貝を棚に戻し、眠りについた。
翌朝、女は携帯電話の音で目が覚めた。
「私は弁護士です。あなたの親戚が亡くなり、あなたに全財産が譲られることになりました」
弁護士の言った親戚の名前は、聞いたこともないものだった。遠い親戚だという。
女は電話を切ってから棚を見ると、巻貝がバレーボールほどの大きさになっていることに気づいた。
女は詐欺の電話かもしれないと思ったが、自分が失う財産はないので、その日の昼前に弁護士の指定した場所に出かけ、弁護士と名乗る男の説明にしがたって、書類にサインをした。
女は夕方、自分の銀行口座の残高照会をして腰を抜かしそうになった。金額の桁数を指差しで数えてみると、一生かけても使い切れない金額であった。
女は部屋に帰り、巻貝に声をかけた。
「願いが本当に叶ったわ。ありがとう」
「まだ願いごとがあれば、言ってください。叶えて差し上げます」
バレーボールほどの大きさの巻貝の声は昨日よりも大きくなっていた。昨日は気づかなかったが、声の質は自分の声を似ていた。
女は言った。
「美しくなりたい」
女は女優の名前を挙げて、その女優のような顔とスタイルにして欲しいと言った。
「分かりました」
巻貝はそう言うと沈黙した。
女はベッドで眠りについた。
翌朝女は目を覚ました。
棚にあったはずの巻貝が床に落ちていて、掛け布団を四つ折りにしたくらいの大きさになっていた。
女はベッドから出て、壁に吊るした鏡で自分の姿を見て声を上げそうになるほど驚いた。
自分が希望した女優の顔と容姿に似ているが、それ以上に美しく魅力的なスタイルになっていた。
「本当に願いを叶えてくれたのね」
女は昨日よりもさらに大きくなった巻貝に声をかけた。
「まだ願いごとがあれば、言ってください。叶えて差し上げます」
巻貝の声は、普通の人間の声と同じくらい大きくはっきりとしていた。その声は、自分の声とそっくりであった。
「素敵な男性と知り合い、結婚したいわ」
女は大きな声で言った。
「分かりました」
巻貝はそう言うと沈黙した。
女は夜が来るのが待ち遠しかった。一日中そわそわしていたが、ようやく夜が来て女はベッドに入った。
興奮してなかなか眠れなかったが、女はようやく眠りについた。
その時、ベッドの横の床にあった巻貝が少しずつ大きくなり始めた。
ベッドと同じくらいの大きさになったとき、巻貝の穴の中からゆっくりと人間の左腕が出てきた。続いて右腕が出てきて、頭が現れ、体全体が四つん這いで這い出すようにして巻貝の外に出てきた。そして立ち上がった。
出てきたのは女であった。その女の容姿は、ベッドで寝ている女とそっくりである。
巻貝から出てきた女はつぶやいた。
「やっと出てこられた。これで幸せになれる。私の期待通りの願いを言ってくれたわ」
女が這い出た後の巻貝は、元の手のひらサイズに戻っている。
巻貝から這い出た女は、巻貝を拾い、ベッドで眠っている女の頭の上に乗せた。
すると、女は巻貝の穴の中に徐々に吸い込まれていき、完全に消えた。
三日後。
巻貝から這い出た女は、美男の若者とデートで海に来ている。女は手提げ鞄から赤い巻貝を取り出した。
「この巻貝が私の夢を叶えてくれたのよ。だから海に返すの」
女はそう言って、巻貝を沖に向って思い切り放り投げた。巻貝は回転しながら空を飛び、ポシャという音と共に海面に吸い込まれて、海の底に沈んでいった。
三年後。
嵐の翌日の晴れ渡った海岸の砂浜に、赤い巻貝が打ち上げられていた。
一人の女が近づいてきて、「何て美しいんでしょう」とつぶやくと、巻貝を手提げ鞄にしまって立ち去って行った。