第1話

文字数 2,467文字

教室は今日もガヤガヤと賑やかだった。
瞬間、ジェットコースターに乗っているような感覚に襲われる
みんなも同じようだ、あたふたと周りを見渡しパニックになっている。

 もう一度、同じ感覚が起きる。
思わず目を瞑り体を縮めた。

 しばらくして、恐る恐る目を開けるとそこは教室ではなかった。
目の前に教祖のような格好をした男性が立っている。

 周りからどよめきが聞こえた。

「成功だ!成功したぞ!」
「500人もの命を賭けたんだもの当たり前じゃない!」

 クラスメイトは全員ポカンとした顔をしている。
もちろんそれは私もだ。

 教祖もどきが口を開いた
「よくぞお越しくださいました。異世界の勇者たちよ、我々タザール人一同心より感謝申し上げます。」
「どうか我々をお助けくださいませ。」

 訳がわからない。いち早く状況を飲み込めた学級委員、佐藤啓太が震える声で状況確認をした。
「こ、ここはどこですか…助けるとはどう言うことですか」

 佐藤の声がけを皮切りに、クラスメイトからも疑問の声が多くあがってきたところを教祖の隣にいた温厚そうな男性がたしなめる。

「みなさん、急にこんなところに呼び出されて混乱していらっしゃいますよね、ここは一つ私から説明いたしましょう。」

 男性から聞かされた説明は目を見張るものだった。
この国、タザールは昨年から魔物の出現が大幅に増加しており、今の兵力では対応できないらしい。
だから異世界から勇者を召喚しようと言う話になり、召喚されたのが私たちということだ。

 なぜか、異世界から召喚されたものは1人で1000もの兵士の代わりになる力を秘めており、その力を使ってタザールを救えということらしい。

「どうか我々をお救いください。勇者一同様」

 そこまでの説明を聞き、ようやく私たちが質問する番組がきた。

「現実世界には帰れるんですか?」
佐藤が聞くと教祖は重々しく口を開いた。
「帰れはしません。」

 この一言でクラスは一気にパニックになってしまった。
当たり前だ、急に呼び出されて2度と家族とは会えないと、現実世界には帰れないと言われてしまったのだから。

 どれほど辛いだろう。この気持ちはどう表現すればいいだろう。

 泣き叫ぶ私たちを見て、男性は一言爆弾発言をした。
「別にいいではありませんか」

 私たちは反論の暇を与えられず、大きな部屋に案内された。どうやらしばらくここで頭を冷やせということらしい。

 みんな喋る気力を無くしている。所々から嗚咽のような泣き声が聞こえた。

「クソだよね。」
私は勇気を振り絞って喋ってみた。みんながこっちに注目してちょっと恥ずかしいけど。

「だって、急に呼び出されて助けろって意味わかんないし。自己中すぎるよね。」
ちょっと笑いを交えて言ってみる。
正直私も気持ちの整理ができてない。現実を直視したくない。

「ほんと、そうだよね…」
私の発言に答えてくれたのは三橋楓、いつも私と仲良くしてくれている女の子。

「意味…わかんない」

「そうだよね、でも今考えなしに行動してもっと酷い状況になるのは嫌だと思うのね。だから、少し落ち着いてこれからどうするかとか、話し合わない?」

 できるだけ落ち着かせられるように話してみる。
あの教祖達に向かって、くそったれと言いたい気持ちはみんな一緒だ。だからこそ落ち着いてこれからのことを話さないといけない。 私達は唯一現世のことを語り合える仲間だから。

 少しだけ、明るさが戻ってきたところで、この世界の話題をぶちこむ。
「私達は魔物?ってやつを倒すために召喚されたんだよね?」
中山美穂が喋る。クラスのカースト上位の女の子だ。

「なんの心得もない私たちが魔物ってやつと戦ったところで死ぬのがオチってもんじゃない?」

部屋から悲鳴のような声が聞こえる。

「だからこそ、私達はあのクソ共に媚び諂って倒し方とか学ばなといけない。」

周りから共感の声が湧く。

「結局状況確認が大事ってことだね、あいつらに聞いておいた方がいいことまとめておこうよ」

 こうしてできた質問表を部屋を訪ねてきた教祖に私一つ一つ答えてもらった。

 その結果、分かったのはこの5つ
・まず、この世界には魔法というものがあり、使えるかどうかは生まれてきた時から決まっているということ

・魔物とは、悪意の塊みたいな生き物で、あいつらも魔法を使うということ。また、物理攻撃も効くということ。

・私達は異界人なので、
 特別な能力を持っているはずだということ。

・魔物の倒し方などはここ、タザール城で学ばせてくれるということ、衣食住保証。

・私たちを召喚するために、約500人ほどの魔法使いを使ったので、その分の魔力を使わなければ元の世界に戻ることはほぼ不可能ということ

 最後の質問の答えを聞いた時、私たちは安心したように座り込んでしまった。
みんな同じことを考えていたと思う。
(よかった、帰れないということではないのだ。)

 私の中で一つの疑問が浮かび、教祖に質問する。
「私達は1人で1000人分の兵士の力を持つんですよね?じゃあ元の世界に帰るなんて簡単じゃないんですか?」

 教祖はギクッと身体をこわばらせると、恐る恐るという感じで説明してくれた。
「そ、そうなんですけど。それ予防で君たちには呪いがかかっているんです。呼び出した者の命令を聞かなければ激しい痛みに襲われる呪いが。」

 私達はそれを聞いた時、ひどい顔をしていたと思う。

「で、では夕食の用意をしてまいります。」
教祖は慌てながら部屋から出ていった。

 しばらく、誰も喋らなかった。
「呪いをかけれたってことは呪いをはずせるってことだよ」
沈黙を破ったのは山田悠介だった。
「呪いを外す方法だってあるはずだよ、みんなそんな落ち込まないでよ」

「そうだね」

「大丈夫なんとかなるよ!」

 山田の一言でみんなに活気が戻ってきた。

 とにかく、と佐藤が切り出す。
「呪いの解き方がわかるまでは、大人しくあいつらの言う通りに行動しておこう。」

 こうして、私達が異世界に来てから1日が経過した。

 大丈夫、現実世界に戻ってみせる。
プラスであの教祖共に目にもの見せてやる。

続く
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