1話完結
文字数 1,701文字
どうしてあんな男が好きだったのか、わからないとゆりは思った。恋愛熱は冷めたようだ。馬鹿馬鹿しい、彼のどんなところが良かったのかさえ忘れたのである。逆に嫌な点ばかりが思い出された。思い出は美化されるものじゃないのか、別れて正解だったと思った。
真人からフラれたゆりは、情緒不安定になり周囲を随分心配させた。立ち直るのにかなり時間がかかった。最近になってから、会いに来てくれる友人とやっとまともに会話が出来るようになったくらいだ。
気持ちも落ち着いてきたのだからと、今は部屋の片付けをしている。彼に纏わる物を整理する為だ。
「お気に入りだけど、この服も要らないや。」
「要らないなら、それ、私が貰おうか?」
「駄目!捨てる服が復活してる様なんて見たくない。思い出したくもない思い出があるの、知ってるでしょ!」
旧知の仲の睦美ときゃあきゃあ言いながら、思いでの品々を片付けていった。これはナントカ記念に貰った、これは誕生日に、これは喧嘩の仲直りに、これは・・・といろいろ思い出す度にチクリと胸が痛む。
「あーっと、そろそろ私、行くわ。母に用事を言いつけられていたんだった。」
「むっちゃん、今日は有難う助かったわ。私一人だったら、まだ行動していなかったと思う。大体片付いたし感謝です。」
部屋のあちこちを見てからゆりは言った。
「どう致しまして。私はゆりが元気になって嬉しいよ。もう行くけど、ゆりはこの後どうするの?」
「途中まで見送ります!まだ一緒にいたいから。その後はまだわからないな。」
今日は誰も家にいない。ゆりは、まだ一人になりたくなかった。
ゆりは駅に向かう道の途中まで睦美と連れ立って歩いた。それから睦美と別れて、近くにある大きな公園に行くことにした。今は新緑が綺麗だ。日差しも気持ち良く、気分も晴れるだろうと考えたのだ。
木陰のベンチを見付けて座り、芝生の広場を眺めた。広場の回りは広葉樹に囲まれており、緑が美しい。目を凝らすと、人々が広場で思い思いのことをしている。平和だなとゆりは思った。
「伊藤さんじゃない?」
フレンチブルドッグを連れている男が近づいてきた。良く見ると同級生だった梶元宏だ。
「犬の散歩?梶くんだよね、高3のクラスが一緒だった。」
何故だかすんなりと言葉が出た。
「おー、名前を覚えてくれていて、嬉しいよ。」
「なんだか懐かしいな。元気?そうでもないか。ボロボロだね、伊藤さんの見た感じ。」
そういう梶は爽やかで、大人になっており男前が上がっている。
「そうねぇ。失恋から立ち直りかけているところですから、ボロボロなのかも。」
「いきなりの告白ですか。普通じゃないね。」
梶は遠慮なく、ゆりの隣に腰掛けた。
「普通じゃないから、すんなり言葉が出たのかな。取り繕う気力もないよ。」
「はい、俺の小太郎を貸してあげるよ。失恋には温もりが必要だ。」
梶は足元にいた犬を抱き上げ、少し驚いたゆりに半ば強引に手渡した。
抱き止めた犬は、温かいがコロコロとして抱き心地は正直、良くなかった。しかし、潤んだ二つの目で無邪気に見つめられ、大人しくしている様子の犬に、ゆりの心はじんわり温かくなった。泣きたい、とゆりは思った。
「梶くんは怪しくて優しいね。突然会った、昔の同級生に普通こんなことしないと思うな。」
「そお?まあ、急展開だもんね。気にしないで。遠くから、切な気な雰囲気の女性を見付けて、思わず声を掛けずにはいられなかったんだ。そういうものだろ、男って。」
「そういうものなの??」
色気があるのか、無いのかわからない会話に、ゆりは不思議と笑ってしまった。
それから自然に、どちらともなくお互いの話をしだした。腕の中の小太郎は心地よかったのか、居眠りをし始めている。
話に夢中になっていた二人は、肌寒くなってきたことに気付いた。日も傾きはじめており、随分時間が過ぎてる。
「よかったら、連絡先くれない?また会いたい。」
別れ際、ゆりは小太郎のリードを握る梶の手の薬指をチェックした。新しい恋もいいかも知れない。連絡、私からしてみようかな、とゆりはぼんやり考えた。
真人からフラれたゆりは、情緒不安定になり周囲を随分心配させた。立ち直るのにかなり時間がかかった。最近になってから、会いに来てくれる友人とやっとまともに会話が出来るようになったくらいだ。
気持ちも落ち着いてきたのだからと、今は部屋の片付けをしている。彼に纏わる物を整理する為だ。
「お気に入りだけど、この服も要らないや。」
「要らないなら、それ、私が貰おうか?」
「駄目!捨てる服が復活してる様なんて見たくない。思い出したくもない思い出があるの、知ってるでしょ!」
旧知の仲の睦美ときゃあきゃあ言いながら、思いでの品々を片付けていった。これはナントカ記念に貰った、これは誕生日に、これは喧嘩の仲直りに、これは・・・といろいろ思い出す度にチクリと胸が痛む。
「あーっと、そろそろ私、行くわ。母に用事を言いつけられていたんだった。」
「むっちゃん、今日は有難う助かったわ。私一人だったら、まだ行動していなかったと思う。大体片付いたし感謝です。」
部屋のあちこちを見てからゆりは言った。
「どう致しまして。私はゆりが元気になって嬉しいよ。もう行くけど、ゆりはこの後どうするの?」
「途中まで見送ります!まだ一緒にいたいから。その後はまだわからないな。」
今日は誰も家にいない。ゆりは、まだ一人になりたくなかった。
ゆりは駅に向かう道の途中まで睦美と連れ立って歩いた。それから睦美と別れて、近くにある大きな公園に行くことにした。今は新緑が綺麗だ。日差しも気持ち良く、気分も晴れるだろうと考えたのだ。
木陰のベンチを見付けて座り、芝生の広場を眺めた。広場の回りは広葉樹に囲まれており、緑が美しい。目を凝らすと、人々が広場で思い思いのことをしている。平和だなとゆりは思った。
「伊藤さんじゃない?」
フレンチブルドッグを連れている男が近づいてきた。良く見ると同級生だった梶元宏だ。
「犬の散歩?梶くんだよね、高3のクラスが一緒だった。」
何故だかすんなりと言葉が出た。
「おー、名前を覚えてくれていて、嬉しいよ。」
「なんだか懐かしいな。元気?そうでもないか。ボロボロだね、伊藤さんの見た感じ。」
そういう梶は爽やかで、大人になっており男前が上がっている。
「そうねぇ。失恋から立ち直りかけているところですから、ボロボロなのかも。」
「いきなりの告白ですか。普通じゃないね。」
梶は遠慮なく、ゆりの隣に腰掛けた。
「普通じゃないから、すんなり言葉が出たのかな。取り繕う気力もないよ。」
「はい、俺の小太郎を貸してあげるよ。失恋には温もりが必要だ。」
梶は足元にいた犬を抱き上げ、少し驚いたゆりに半ば強引に手渡した。
抱き止めた犬は、温かいがコロコロとして抱き心地は正直、良くなかった。しかし、潤んだ二つの目で無邪気に見つめられ、大人しくしている様子の犬に、ゆりの心はじんわり温かくなった。泣きたい、とゆりは思った。
「梶くんは怪しくて優しいね。突然会った、昔の同級生に普通こんなことしないと思うな。」
「そお?まあ、急展開だもんね。気にしないで。遠くから、切な気な雰囲気の女性を見付けて、思わず声を掛けずにはいられなかったんだ。そういうものだろ、男って。」
「そういうものなの??」
色気があるのか、無いのかわからない会話に、ゆりは不思議と笑ってしまった。
それから自然に、どちらともなくお互いの話をしだした。腕の中の小太郎は心地よかったのか、居眠りをし始めている。
話に夢中になっていた二人は、肌寒くなってきたことに気付いた。日も傾きはじめており、随分時間が過ぎてる。
「よかったら、連絡先くれない?また会いたい。」
別れ際、ゆりは小太郎のリードを握る梶の手の薬指をチェックした。新しい恋もいいかも知れない。連絡、私からしてみようかな、とゆりはぼんやり考えた。