のど元過ぎても熱さを忘れぬ。
文字数 1,659文字
『逃げて!逃げて!逃げて!』
夢の中で誰かが警告を発していた。
熱帯夜真っ只中に起きたわたしは、全身汗まみれになっていた。
これは警告夢?
灼熱の夏休みが始まっていた。
16歳になったわたしは、意味不明の強い切迫感を感じていた。
この場所にいてはいけない切迫感。
それが何を意味するのかは解らなかったが、まあまだ高1だし、気分転換にバイトでもすることにした。
お洒落なキッチンカーは、子どもの頃から憧れていた。
わたしがバイトを始めたキッチンカーは、理想的とは言い難かったが、それでもわたしの心は弾んだ。
わたしは憧れのキッチンカーの助手席で、ウキウキしていた。
クーラーの効いた車内と違い、車外は灼熱の世界に見えた。
炎天下で熱せられた道路が、蜃気楼を生み出していた。
その時のわたしは、『蜃気楼だ』そう認識した。
わたしの隣でキッチンカーを運転しているのが、バイトの、上司にあたるのののさんだ。
正確には『のののさん』って名前だから、のののさんと呼ぶのは呼び捨てになるのだが、それでも良いらしい。変わった名前だ。
のののさんの年齢は19歳。
キッチンカー歴1年ちょいの美少女?かな。
まあスタイルは、わたしより良いのは事実だ。
「それにしても車外は厚いね、のど元過ぎても熱さ忘れぬって奴ね」
のののさんはそう言ったが、若干意味が解らないが、
「そうですね」
と無難に答えた。
道路の向こうに道の駅が見えてきた。
「のののさん、見てください!未知の駅って書いてある」
「ああそれね。そこは道の駅じゃなくて、未知の駅だからじゃないかな」
相変わらず何を言ってるのか解らないんですけど。
駐車場にキッチンカーを停めると、わたしはとりあえず、看板と幟を立てた。
さっそくお客がやってきた。わたしは
「いらっしゃいませ」
と笑顔で言った。
その時、異変が起きた。
「●●●●●」
お客さんの言葉を理解できないのだ。方言のレベルじゃない。
日本語外国語のレベルでもない。
「のののさん!」
わたしは助けを求めた。
「●●●●●」
のののさんはお客さんに向かって、謎の言葉をかけた。
のののさんの言葉に、お客さんは笑った。
「のののさん?」
のののさんは、たこ焼きを焼くと、お客さんに手渡しするように、わたしに渡した。
わたしがお客さんに渡し、500円硬貨を受け取った。
「●●●●●」
のののさんは笑顔で何か言った。
お客さんが居なくなると、
「何なんですか?ここは!」
「ちょっとしたパラレ『ラ』ワールドだよ」
「パラレ『ラ』?ワールド?」
「さっきの蜃気楼で入っちゃったんだよ」
「そんな事って!」
「まあ色々あるよね」
わたしは受け取った500円硬貨をふと見ると、令和ではなく零話と書かれていた。
「これ零話 って書いてる!」
「それはね、『れいわ』じゃなくて、『こぼればなし』って読むんだよ。乙だね」
のののさんは、えらく感心した。
どう【乙】なのか数秒考えたが、理解不能だった。
そして
「ちょっとお出で」
とわたしを未知の駅の建物の方に誘った。
セルフレジの様な装置が在った。
「ここに、その500円を入れてごらん」
わたしは言われるままに、零話 1年と書かれた500円硬貨を入れた。
「これで課金完了」
「課金?もしかしてこれで元の世界に戻れるの?」
「う~んどうだろう。少なくとも元の世界に近い世界には戻れるよ」
「えええええええええええ、そんな!元の世界に戻してよ!
こんな事バイトする前に、何も聞いてないよ!」
のののさんは、悲しげな顔をして、
「元の世界があなたを拒絶したの。拒絶された世界では、あなたは生きては行けない」
「えっそんな事って!?」
「そう言うシナリオだから」
「そんな・・・」
「何となく解っていたんでしょう、あなたは、直感的に」
「わたしが世界から拒絶されたって事を・・・」
わたしは胸が締め付けられた。心も身体もそれを感じていたのだ。
「ほら、海があるよ。明日はお休みにして、一緒に泳ごうか?
どこの世界でも海は気持ちが良いよ」
未知の駅から見下ろすと、綺麗な青い海が広がっていた。
キラキラ輝く青い海は、前いた世界より、綺麗に見えた。
おしまい
夢の中で誰かが警告を発していた。
熱帯夜真っ只中に起きたわたしは、全身汗まみれになっていた。
これは警告夢?
灼熱の夏休みが始まっていた。
16歳になったわたしは、意味不明の強い切迫感を感じていた。
この場所にいてはいけない切迫感。
それが何を意味するのかは解らなかったが、まあまだ高1だし、気分転換にバイトでもすることにした。
お洒落なキッチンカーは、子どもの頃から憧れていた。
わたしがバイトを始めたキッチンカーは、理想的とは言い難かったが、それでもわたしの心は弾んだ。
わたしは憧れのキッチンカーの助手席で、ウキウキしていた。
クーラーの効いた車内と違い、車外は灼熱の世界に見えた。
炎天下で熱せられた道路が、蜃気楼を生み出していた。
その時のわたしは、『蜃気楼だ』そう認識した。
わたしの隣でキッチンカーを運転しているのが、バイトの、上司にあたるのののさんだ。
正確には『のののさん』って名前だから、のののさんと呼ぶのは呼び捨てになるのだが、それでも良いらしい。変わった名前だ。
のののさんの年齢は19歳。
キッチンカー歴1年ちょいの美少女?かな。
まあスタイルは、わたしより良いのは事実だ。
「それにしても車外は厚いね、のど元過ぎても熱さ忘れぬって奴ね」
のののさんはそう言ったが、若干意味が解らないが、
「そうですね」
と無難に答えた。
道路の向こうに道の駅が見えてきた。
「のののさん、見てください!未知の駅って書いてある」
「ああそれね。そこは道の駅じゃなくて、未知の駅だからじゃないかな」
相変わらず何を言ってるのか解らないんですけど。
駐車場にキッチンカーを停めると、わたしはとりあえず、看板と幟を立てた。
さっそくお客がやってきた。わたしは
「いらっしゃいませ」
と笑顔で言った。
その時、異変が起きた。
「●●●●●」
お客さんの言葉を理解できないのだ。方言のレベルじゃない。
日本語外国語のレベルでもない。
「のののさん!」
わたしは助けを求めた。
「●●●●●」
のののさんはお客さんに向かって、謎の言葉をかけた。
のののさんの言葉に、お客さんは笑った。
「のののさん?」
のののさんは、たこ焼きを焼くと、お客さんに手渡しするように、わたしに渡した。
わたしがお客さんに渡し、500円硬貨を受け取った。
「●●●●●」
のののさんは笑顔で何か言った。
お客さんが居なくなると、
「何なんですか?ここは!」
「ちょっとしたパラレ『ラ』ワールドだよ」
「パラレ『ラ』?ワールド?」
「さっきの蜃気楼で入っちゃったんだよ」
「そんな事って!」
「まあ色々あるよね」
わたしは受け取った500円硬貨をふと見ると、令和ではなく零話と書かれていた。
「これ
「それはね、『れいわ』じゃなくて、『こぼればなし』って読むんだよ。乙だね」
のののさんは、えらく感心した。
どう【乙】なのか数秒考えたが、理解不能だった。
そして
「ちょっとお出で」
とわたしを未知の駅の建物の方に誘った。
セルフレジの様な装置が在った。
「ここに、その500円を入れてごらん」
わたしは言われるままに、
「これで課金完了」
「課金?もしかしてこれで元の世界に戻れるの?」
「う~んどうだろう。少なくとも元の世界に近い世界には戻れるよ」
「えええええええええええ、そんな!元の世界に戻してよ!
こんな事バイトする前に、何も聞いてないよ!」
のののさんは、悲しげな顔をして、
「元の世界があなたを拒絶したの。拒絶された世界では、あなたは生きては行けない」
「えっそんな事って!?」
「そう言うシナリオだから」
「そんな・・・」
「何となく解っていたんでしょう、あなたは、直感的に」
「わたしが世界から拒絶されたって事を・・・」
わたしは胸が締め付けられた。心も身体もそれを感じていたのだ。
「ほら、海があるよ。明日はお休みにして、一緒に泳ごうか?
どこの世界でも海は気持ちが良いよ」
未知の駅から見下ろすと、綺麗な青い海が広がっていた。
キラキラ輝く青い海は、前いた世界より、綺麗に見えた。
おしまい