第1話

文字数 769文字

 結果を出せ! と上司がメールで喚いている。
 俺は事情を説明した。砂漠の気候は精密機械に最悪だ、と。
 土地の借用期限が迫っているんだぞ、それを分かっているのか! と上司。
 んなこた分かってる。借地契約の期限を越えたら、その分の延滞料金が課金されるなんてのは百も承知だ。それでも言う。無理なものは無理だ! と。
 世界最大の砂漠での資源調査は過酷だった。炎天下の昼は地獄の暑さなのに、夜は氷点下にまで気温が下がる。その繰り返しで調査用精密機械のセンサーに狂いが生じてしまうのだ。
 電磁波の反射を測定し、それを高性能なAIで分析することで、地面を掘らずに貴重な地下資源を試掘可能という謳い文句で落札した事業だが、見通しが甘かった。しかし、それは俺が決めたことじゃない。会社の上層部の決定だ。それで俺が責められるのはおかしい!
 そんな苦情を上司に言ったところで、相手は中間管理職。どうしようもない……と思ったら違った。俺の苦労を分かってくれたのだ。砂漠に適応した新型AIをすぐに送ってくれるという。
 俺は涙ぐんだ。これが昭和のサラリーマンだったら、死ぬまで働かされる。平成のリーマンも似たようなものだろう。今が令和で良かった。令和のサラリーマンで良かった。
 スマホの画面に表示される特殊なコードを網膜でスキャンせよとの指示に従うと、俺の頭に最新式の砂漠対応AIのプログラムがダウンロードされた。このシステムならセンサーの値の狂いを自動的に修正してくれるのだという。気のせいか、頭の中がスッキリしてきた。上司にそう伝えたら笑顔の顔文字が送信されてきた。上司の頭のAIは平成時代のままなのだ。もっとも、そんなレトロな仕様が、俺は嫌いではない。
 ホテルを出た俺は、特殊な電磁波を放射するダウジングの棒を両手に握り締め、蜃気楼が揺らめく砂の海へ向かった。
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