裸電球

文字数 730文字

 裸電球の下で震える自分の肩を両手で抱きしめている。もう何時間経過したのだろう。漠然とした不安が眠気覚ましになって、0時を越してもこうして何をするわけでもなく布団の上で起き上がっている。パジャマから伸びた自分の病的に細い腕と床に落ちた影をずっと眺めている。裸電球の光が隅々まで行き渡っているこの406号室で。一人。
 まあ、もしかしたら彼が来ることを期待していたのかもしれなかった。彼=死神。深夜に絶望的な気分でいると、たまに顔を見せる。私は死神としか呼ばないからどんな名前だったか忘れたけれど、その死神には確か花の名前と同じ名前があった。初めて死神に会った時に教えられた記憶がある。
 初めて死神に会ったのは、確か一年前のことだ。部屋の中で今みたいに裸電球の下でうずくまっていたら、いきなり玄関を開錠する音が聞こえて。黒いコートに白いマフラーを巻いて、冷たい風を纏って現れた死神は見たところ十代の普通の若者で、誠実そうな人間に見えた。それだから、そんなことがあるかは分からないが、部屋を間違えて入ってきたんじゃないかと思って私はぼうっと彼の顔を眺めていた。彼の方で何らかのアクションを取るだろうという、怠惰な感じで眺めていた。だが彼は私の顔を見るなり控えめな笑顔を浮かべてこう告げた。
「貴方死ぬよ」
 死神はそれからも定期的に、決まって深夜の私が眠れない時に限って私の部屋を訪れた。何故彼が鍵を持っているのかは分からない。死神と話していると頭の中がぼうっとして眠くなってくるから、いつも肝心なことは聞きそびれてしまう。まあ、だからこうして裸電球の無機質な明かりの下で、体の震えが止まるのをぼんやり待っている。彼のことを無意識に待っている。眠れる時を待ち侘びている。
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