第1話
文字数 1,195文字
あーあ、やんなっちゃった。この暑いのに外で練習だなんて。早く家帰ってだらだらしたーい...。
「おい」
話しかけてきたのは陸上部の部長。生真面目で無愛想なやつ。あと口うるさい。特にわたしに。
「なに」
「お前ほんとに女かよ、そんな座り方して」
たしかにうんこ座りはしてるけど、それはあんまりじゃないの。うるさいなあ。
「それはあんまりじゃないの、うるさいなあ」
「あとダラダラしたいなら家でしてくれ」
あれ、暑すぎて頭の中身溶け出してんのかな。もうだめ、わたし疲れた。
「そんなこと言ってないで、再開するぞ。立て」
いやいや立ち上がって膝に手をついたとき、いいことを思い付いた。にわかにしゃっきりと立つ。
「どうした、そんな急にシャキっとして」
「じゃあね」
私は急に走り出した。校庭の出口に向かって。部長のやつ、驚いた顔して立ってやんの。数10メートルほど離れたところでわたしは声を張った。
「捕まえてみなよ、わたし帰るから」
わたしはまたすぐに走りだした。これでも、女子の中では一番手なんだから。でも部長のやつは男だし、ハンデよ、ハンデ。
そう思って振り替えると、部長は既に真顔でスタートをきっていた。まずい、と思ってわたしも本腰を入れ始める。
嘘でしょ、速いって
学校の門を通過。90度のコーナーを曲がってゆるやかな下り坂に入る。門を出ても部長はしっかりと追いかけてきていた。
え、まだ追いかけてくんの
わたしは帰るためではなく、もはや部長から逃げるために走っていた。真顔で怖いし、怒られそう。下り坂が終わると今度は45度のコーナーを通過。川沿いの道に入る。
ちょっと、なんとかいってよ
ほんと無言で追いかけてくるんだから。こっちももう走ってて、言葉をちゃんと発せているのかわからない。川沿いのストレートは続く。
どのくらい走ったのだろうか。2人の間はほとんど縮まらない。きっと部長のやつもばててんだ。暑いし。私も、もう、やばい。
足がもう上がらない、だめだ、と思った時には、既に膝に手をついて止まっていた。
後ろからの足音も止み、どうやら部長も止まったらしい。振り替えると、部長は数メートルほど後ろにいた。
なんでこんなこと、ふっかけたんだろ。逃げ切れるわけ、ないのに。ていうか、部長もさっさと追い付きなさいよ。追っかけてくるから、こんなとこまで、来ちゃったじゃん。
「うるさいな、こっちだって、暑くてしょうがないんだ」
「ねえ」
「なんだよ」
捕まえなくて、いいの
「え?なに?」
「なんでもない!疲れた!」
そういって彼女は座りこんだ。なにしてんだろ、といって笑っている。こっちも自然と笑っていた。なにしてんだろうな、ほんと。
太陽が照りつけて、二人以外の人間を枯らしてしまったようだ。
さっきの言葉は、聞こえなかったふりをした。
「おい」
話しかけてきたのは陸上部の部長。生真面目で無愛想なやつ。あと口うるさい。特にわたしに。
「なに」
「お前ほんとに女かよ、そんな座り方して」
たしかにうんこ座りはしてるけど、それはあんまりじゃないの。うるさいなあ。
「それはあんまりじゃないの、うるさいなあ」
「あとダラダラしたいなら家でしてくれ」
あれ、暑すぎて頭の中身溶け出してんのかな。もうだめ、わたし疲れた。
「そんなこと言ってないで、再開するぞ。立て」
いやいや立ち上がって膝に手をついたとき、いいことを思い付いた。にわかにしゃっきりと立つ。
「どうした、そんな急にシャキっとして」
「じゃあね」
私は急に走り出した。校庭の出口に向かって。部長のやつ、驚いた顔して立ってやんの。数10メートルほど離れたところでわたしは声を張った。
「捕まえてみなよ、わたし帰るから」
わたしはまたすぐに走りだした。これでも、女子の中では一番手なんだから。でも部長のやつは男だし、ハンデよ、ハンデ。
そう思って振り替えると、部長は既に真顔でスタートをきっていた。まずい、と思ってわたしも本腰を入れ始める。
嘘でしょ、速いって
学校の門を通過。90度のコーナーを曲がってゆるやかな下り坂に入る。門を出ても部長はしっかりと追いかけてきていた。
え、まだ追いかけてくんの
わたしは帰るためではなく、もはや部長から逃げるために走っていた。真顔で怖いし、怒られそう。下り坂が終わると今度は45度のコーナーを通過。川沿いの道に入る。
ちょっと、なんとかいってよ
ほんと無言で追いかけてくるんだから。こっちももう走ってて、言葉をちゃんと発せているのかわからない。川沿いのストレートは続く。
どのくらい走ったのだろうか。2人の間はほとんど縮まらない。きっと部長のやつもばててんだ。暑いし。私も、もう、やばい。
足がもう上がらない、だめだ、と思った時には、既に膝に手をついて止まっていた。
後ろからの足音も止み、どうやら部長も止まったらしい。振り替えると、部長は数メートルほど後ろにいた。
なんでこんなこと、ふっかけたんだろ。逃げ切れるわけ、ないのに。ていうか、部長もさっさと追い付きなさいよ。追っかけてくるから、こんなとこまで、来ちゃったじゃん。
「うるさいな、こっちだって、暑くてしょうがないんだ」
「ねえ」
「なんだよ」
捕まえなくて、いいの
「え?なに?」
「なんでもない!疲れた!」
そういって彼女は座りこんだ。なにしてんだろ、といって笑っている。こっちも自然と笑っていた。なにしてんだろうな、ほんと。
太陽が照りつけて、二人以外の人間を枯らしてしまったようだ。
さっきの言葉は、聞こえなかったふりをした。