なつのひかり

文字数 471文字

風鈴は夢を見ました

半球形のガラスに描かれた
朱や藍色の金魚が

風の速度で
くるくると鮮やかに泳いでいます

りりーるん

かわいらしい音を鳴らすと

縁側に集まったこどもたちは
一瞬おしゃべりをやめ

明るい瞳で
風鈴を見上げます

そんな夢です

実際は少し違いました

風鈴のガラスは
まあるく完成したものの
ほかの風鈴よりちょっとだけ大きく

決められた大きさの箱に入らなくて

ガラスに絵を付ける前に
工場裏に捨てられてしまったのです

だからガラスは
いまも透明なまま

でも、
どの風鈴よりも
音だけは負けない自信があります

「誰かが気づいてくれればなあ」

がらくただらけの空き地で
風鈴はまいにち思っていました

ある日

うたたねから目覚めると

知らない窓で揺れていて
びっくりしました

通りかかった誰かが

できそこないの風鈴を

気に入って
持って帰ったのでした

窓の外には
目に染みるような青もみじ

葉に透けた
なつのひかりは
風鈴のガラスに絵を描きました

薄緑の影が
ガラスの中の青空を
ゆらり泳いでいます

やさしい風が吹いてきました

ここからが腕の見せどころ

りりーるん

風鈴は思いきり
涼しい音を鳴らしました

おわり
SumiyoⒸ2021
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