第1話

文字数 1,031文字

 黒いスーツの上下、黒いシャツ、黒いネクタイに、黒い靴の男が口を開いた。
「こんばんは」
「はあ・・・・・・」と、僕は言った。歓迎する気にまったくなれない訪問者に、返事をしただけでも愛想がいいと言ってほしい。
 僕は僕のベッドに腰掛けて、優雅に足を組んで座っている男をジロジロ眺めた。
「靴、脱いでもらえませんか、せめて」
「ダメだ。格好悪いだろう。汚れないから気にするな。我は地面など歩かない」
 厨二病ですか? と聞き返したいけれど、黒ずくめのイケメン曰く、悪魔だ。背中の真っ黒な羽根のリアル感が強すぎて、否定できないのが辛いところだ。
「おめでとう」
「え。なんで?」
「暇つぶしに、願いを叶えてやろう」
「えっ! 本当ですか?」しかし大切なことは確認しておかないといけない。「あの~、魂とか、取られちゃう感じですか?」
「今回はサービスだ」
「じゃあ里奈ちゃんのハートを射止めたいです!」
「却下」
「出来ないんですか?」
「出来る。だがやらない。そんな願い叶えても、お前が泣き叫ぶところとか見られないだろ」
「自分の望みが叶って、泣き叫ぶ奴はいませんよ」
「我は悪魔だ。欲望にまみれ絶望するところが見たいのだ」
「ハートを射止めたいのは、欲望では?」
「純粋すぎ」
「ピュアな自分が憎いです。もう帰ってください」
「悪魔に願いを叶えてもらえるレアな機会を逃していいのか?」
「願いが叶うなら、帰ってほしいです」
「却下」
「はぁ。じゃあ、ホットミルクを入れてきてあげますよ。ハチミツも入れて。よく眠れますよ」
「悪魔が寝るわけないだろ」
「はい、どうぞ」
「この白き飲み物には、毒も変なクスリも入ってないぞ」
「当たり前でしょ。あれ? なんだか羽根の先っぽが白くなってきていませんか?」
「なに? それはマズい・・・・・・」と、言うなり悪魔は消えた。
 悪魔が座っていたベッドの上には、羽根が一枚落ちていた。半分黒くて半分白い。
「牛乳飲んだから、白くなっちゃったのかなぁ」
 変な悪魔だった。くくく、と笑いがこみ上げてきた。次はココアでも出してあげようかな? 
 ふいにスマートフォンが光った。通信アプリが起動し、勝手に里奈ちゃんへの告白が書き込まれていく。慌ててメッセージを消そうとしたら、送信してしまった。
 すぐに既読がつく。ピコン、ピコン、と既読が増えていく。そりゃそうだ、これはグループで使っている画面じゃないか!
「悪魔の奴~!」
 次回は牛乳にホワイトチョコ、マシュマロもプラスだ! と、僕は拳を握りしめた。


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