マスターとライオン
文字数 1,391文字
あるニュースで、ライオンの親が草食動物の子供を世話しているという話を聞いた。すべての動物は違う種類同士で助け合うことはないと思っていた僕には、かなり衝撃的だった。しかしそれによると、動物界では意外とよく見かける光景ではあるらしかった。
助け合うという行為は、人間社会のほうではめったに見ない。もちろん、ある程度の契約が成立したうえでの、という意味では山ほど存在する。無償で、純粋に、となった時、やはりたいして見当たらない。この現象は、冷静に考えれば面白い。
ホモ・サピエンス(賢い人間)とするならば・・・・・・
なじみのある喫茶店で、僕は友達と一緒にこのことについて話す機会があった。カウンター席の隣にはだれもおらず、マスターも暇なのかこちらの話を興味深そうに聞いている。
最初、僕は思っていることを率直に言った。
「人って、自分たちが思っている以上に残酷で利己的な気がするんだけど。なんなら、普段、僕たちは動物を野蛮だと思っているんだけど、人間も、あんまり変わらない、むしろ、彼らよりも野蛮だと思わない?」
「ほう、なるほど」
自分だって変わり者のくせに、友達は僕を変人のようにこううなずいてきた。少し冷笑交じっている。
「これだけ文明が発達しても、教育しても、僕たちは相変わらずなにかと争っている。自分の信念と、名誉と、自由を守るために。誰かを悪魔に仕立て上げて」
「まあ、確かに? 」
「よく最近はもっと人にやさしくとか、偏見をなくそうとか。でも気づかないところで、各々なんらかの偏見を持っていて、誰かには不寛容」
「そう考えたら、人間の世界って、実は動物の世界よりも・・・・・・」
ここまで言うと、友達はいったん「そうでもないかもよ」と話をさえぎってきた。
「動物だって、別にみんながみんな、そんなに優しい個体ばっかりじゃないし。人間だって、いい人はいっぱいいる。考えすぎじゃ? 」
「うーん。でも、やっぱり多くの人を見ていると、僕も含めて、ひとって、言われてるほど素敵な生き物かって、思っちゃうんだよ」
コーヒーを飲み終わるとき、ちょうど会話が途切れていた。そのすきに、僕はマスターのおじさんに同じのをもう一度注文した。マスターは相変わらず丁寧な笑顔で、「かしこまりました」と作りはじめてくれる。手際もよく、見ていて心地よかった。
「おまたせしました」
その言葉を聞くのに、ほとんど時間はかからなかった。
「あ、そうだ。マスターって、なんでこの仕事してるの?やっぱり、お金のため? 」
突然、黙っていた友達がこう叫んだ。
「え、ええ?難しいなあ。どうなんだろう」
当然のことながらマスターは困惑している。こんなこと急に問われたら、そりゃそうなるに決まってるだろう。
でも、マスターは割と真剣に考えてくれているらしかった。
「まあ、そういう人もいるだろうね。僕もやっぱり、生活もあるから心の片隅には思ってると思うよ」
やっぱり・・・・・・
「ただ」
「だんだんこの仕事に慣れてくると、不思議なことが起こるんだ。最初はそればっかりだったのに、気が付くとほかの誰かの生活の助けになりたい、と思うようになったんだ」
その言葉を聞いて、この会話は終わった。
家に帰って、僕はもう一度その動物のニュースを見ることにした。ことは思ったよりも簡単ではないようだ。
助け合うという行為は、人間社会のほうではめったに見ない。もちろん、ある程度の契約が成立したうえでの、という意味では山ほど存在する。無償で、純粋に、となった時、やはりたいして見当たらない。この現象は、冷静に考えれば面白い。
ホモ・サピエンス(賢い人間)とするならば・・・・・・
なじみのある喫茶店で、僕は友達と一緒にこのことについて話す機会があった。カウンター席の隣にはだれもおらず、マスターも暇なのかこちらの話を興味深そうに聞いている。
最初、僕は思っていることを率直に言った。
「人って、自分たちが思っている以上に残酷で利己的な気がするんだけど。なんなら、普段、僕たちは動物を野蛮だと思っているんだけど、人間も、あんまり変わらない、むしろ、彼らよりも野蛮だと思わない?」
「ほう、なるほど」
自分だって変わり者のくせに、友達は僕を変人のようにこううなずいてきた。少し冷笑交じっている。
「これだけ文明が発達しても、教育しても、僕たちは相変わらずなにかと争っている。自分の信念と、名誉と、自由を守るために。誰かを悪魔に仕立て上げて」
「まあ、確かに? 」
「よく最近はもっと人にやさしくとか、偏見をなくそうとか。でも気づかないところで、各々なんらかの偏見を持っていて、誰かには不寛容」
「そう考えたら、人間の世界って、実は動物の世界よりも・・・・・・」
ここまで言うと、友達はいったん「そうでもないかもよ」と話をさえぎってきた。
「動物だって、別にみんながみんな、そんなに優しい個体ばっかりじゃないし。人間だって、いい人はいっぱいいる。考えすぎじゃ? 」
「うーん。でも、やっぱり多くの人を見ていると、僕も含めて、ひとって、言われてるほど素敵な生き物かって、思っちゃうんだよ」
コーヒーを飲み終わるとき、ちょうど会話が途切れていた。そのすきに、僕はマスターのおじさんに同じのをもう一度注文した。マスターは相変わらず丁寧な笑顔で、「かしこまりました」と作りはじめてくれる。手際もよく、見ていて心地よかった。
「おまたせしました」
その言葉を聞くのに、ほとんど時間はかからなかった。
「あ、そうだ。マスターって、なんでこの仕事してるの?やっぱり、お金のため? 」
突然、黙っていた友達がこう叫んだ。
「え、ええ?難しいなあ。どうなんだろう」
当然のことながらマスターは困惑している。こんなこと急に問われたら、そりゃそうなるに決まってるだろう。
でも、マスターは割と真剣に考えてくれているらしかった。
「まあ、そういう人もいるだろうね。僕もやっぱり、生活もあるから心の片隅には思ってると思うよ」
やっぱり・・・・・・
「ただ」
「だんだんこの仕事に慣れてくると、不思議なことが起こるんだ。最初はそればっかりだったのに、気が付くとほかの誰かの生活の助けになりたい、と思うようになったんだ」
その言葉を聞いて、この会話は終わった。
家に帰って、僕はもう一度その動物のニュースを見ることにした。ことは思ったよりも簡単ではないようだ。