四姉妹とわたし

文字数 1,498文字

 わたしが小学六年生だった時の、二学期のこと。
毎週金曜日、四時すぎに学校から帰ってくると、リビングに直行。テレビの前にぺたんと座って、リモコンでテレビのスイッチをオンし、録画一覧を開く。そして、録画されているアニメ『愛の若草物語』の再放送を観るのだ。母が仕事から帰ってくるのが五時半から六時ごろだったし、友達と遊んでいたのか、習い事へ行っていたのか、弟も帰ってきていなかった。その静かなリビングで、わたしはひとり若草の世界に浸っていた。幸せな時間だった。

 夏休み前の、六年生の一学期にさかのぼる。昼休みに図書館によく通っていた私は、『若草物語』の翻訳小説を見つけた。ちょうど夏休み中の貸し出しが始まっていた時で、すかさず借り、夏休みのあいだ中、自分の勉強机の本棚においた。
弟がひとり。きょうだいはそれきりだったから、わたしは姉妹にあこがれていた。どんなににぎやかで、楽しいだろう。だから、若草の世界にすぐに引き込まれた。好きなキャラクターは、三女のベス。わたしは人見知りなので、ベスの内気な性格と自分とを重ね合わせやすかったからだと思う。もし四姉妹に生まれたら、長女か三女になると決めていた。長女として姉妹をまとめるのは楽しそうだし、三女は一番好きなベスのポジションになれるから。ルーズリーフに、細かい字で、自分で作ったオリジナルの四姉妹の話をびっしり書いたりもした。ルーズリーフ上の少女たちは、アメリカ人ではなく日本人。時代も現代。高校一年生、中学二年生、小学六年生、小学三年生の四姉妹。小説を書いたことはなかったため、ぐだぐだと落ちもなく書き、完結しないままで、今ではそのルーズリーフもどこかへいってしまったが、書いている間とても楽しい気持ちだったのは覚えている。

 そして二学期に戻る。アニメが再放送されていると知って、母に録画するように頼み、第一話を観た。次の第二話を、母が録画し忘れていて、大泣きしたのを覚えている。録画の仕方を私は知らなかったのだ。『そんなに観たかったの?』と驚いた母。少し言い合いになった。今思えば、そこまで必死だったのか、と笑えて来る。それから毎週欠かさず録画予約し、放課後観るという生活が、アニメの最終回まで続いた。

 時は過ぎ、高校1年の冬。わたしは、にぎやかなクラスの隅で、若草物語の翻訳小説を読み返していた。小さいころからずっと人見知りで、大人数でわいわいすることが苦手だったため、世間一般の、活力にあふれている高校生らしくない高校生だった。とにかく、毎日将来への不安を抱えていたわたしを、四姉妹は癒してくれた。物語の世界に入り込むことは、辛いことから離れることを助け、うまくいけば希望を見出すことにもつながる。

 高校二年になって、市の図書館で若草物語の続編を借りた。四姉妹の数年後の話である。マーチ家四姉妹が成長したように、私も若草物語に出会ってから五歳、年をとっていた。
彼女たちの悩みにはかなり共感できるところがあり、うんうん、と頷きながらページをめくった。小学生のときは、これが19世紀のアメリカの生活かあー、おしゃれだなあ、というような感想を抱きながら読んでいたが、高校生になると、その時の自分と照らし合わせたりと、かなり登場人物に感情移入して読んでいた。

 若草物語の世界は、現代日本とはかなり生活様式が違うし、学校制度も違う。日本では舞踏会なんて頻繁に開かれないし、モスリンのドレスだって必要ない。それなのに、持っている悩みが似ているのがおもしろかった。十代の少女が考えることは、いつの時代も、どこの場所でも、だいたい同じようなものなのかもしれない。
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