限りなくヒトに近い世界
文字数 1,982文字
あるところに顔が瓜二つの少年、ヨウタとシンスケがいました。彼らの顔や背格好は鏡を見ているほどに酷似していました。目元のほくろ、笑った時にできるえくぼ、数センチ違わない身長に体重。嬉しいことがあった時に鼻頭を触る癖すらも同じでした。
ヨウタとシンスケはお互いの考えていることが手に取るように感じとることができました。今、何を食べたいか。何をして遊びたいか。何を話したいか。まるで、心が繋がっているかのような二人が仲良くなるのは必然的なことでした。
ある日の事でした。学校の算数のテストでヨウタとシンスケは全く同じ点数を取りました。それを見て、学校の先生はからかうようにいいました。
「ヨウタとシンスケは本当に似ているなぁ。もしかしたら、二人は兄弟なんじゃないか?」
それはヨウタとシンスケにとって願ってもいない事でした。それが本当だったら、こんなに幸せな事はありません。兄弟なら一緒の家に住めて楽しい時間を二人で過ごせると思ったからです。
その日、学校から駆け足でおうちに帰ったヨウタはお母さんに詰め寄りました。
「ねえ、お母さん。ボクに兄弟っている?」
瞬間、お母さんの顔色が悪くなりました。顔を逸らして小さな声で囁くように言います。
「いるわけがないでしょう。そんなことをいっていないで早く手を洗ってきなさい」
その怪しい言動を見て、ヨウタはお母さんがウソをついていると思いました。日頃からお母さんには、舌を抜かれちゃうからウソはついちゃダメだよ、といわれていたヨウタはお母さんがウソをついたことに腹を立てます。そこで、ヨウタはお母さんに対して一つのいたずらをすることにしました。
次の日学校が終わった後、ヨウタはシンスケを近くの公園に呼び出しました。
「これから、ボクの代わりにおうちに帰ってほしいんだ」
「……もしかして、お母さんと喧嘩したの?」
心で繋がっているシンスケは事態をすぐに理解して、ヨウタにいたずらに手を貸してくれることになりました。
「頼まれる代わりに、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
作戦を立て終えた公園からの帰り際、シンスケは聞き逃してしまうほどの小さな声でヨウタに尋ねました。
「もちろんだよ。どんなこと?」
「……その時だけ、ヨウタのお母さんの事をお母さんって呼んでもいい?」
予想もしないシンスケのお願い事に、ヨウタは首を傾げました。
「それは全然いいけど……」
「ほんとに?ありがとう!」
ヨウタがいうと、シンスケは飛び上がらんばかりに喜びました。ヨウタにはシンスケがなんでこんなに喜んでいるかわかりませんでした。それは二人が出会って、初めてわかりあえないことでした。その違和感に頭を悩ますヨウタを尻目に、シンスケはスキップでもするような足取りでヨウタの家へと向かって行きました。
ヨウタが公園のブランコに揺られて数十分が経った時、公園にシンスケが戻ってきました。思ったよりも早い戻りだったので、なにかあったのとヨウタは尋ねます。
「ごめん。すぐにばれちゃった」
肩を落とし、ひどく落ち込んだ様子のシンスケは申し訳なさそうにいいました。
「なんかね、家に着いた時からボクの些細な行動からお母さんは怪しんでいたみたいでさ。『背中を見せて』っていわれたから、見せたらばれちゃったんだ」
「背中を見せたら?」
「うん」
ヨウタは頭を捻らせて考えました。そうして、もしかしたらシンスケの背中にヨウタと見分ける何かがあるのかもしれないと考えました。
「ねえ、ちょっと背中を見せ合いっこしてみようよ」
二人は服をめくり、背中を見比べます。すると、二人に大きな違いがあることが分かりました。
「……4…687?」
ヨウタは他の国の文字はわかりません。読めたのは、シンスケの背中に黒く書いてある数字だけでした。
二人はお互いの顔を見合わせて首を傾げました。不思議な沈黙が二人の間に流れます。
ややあって、シンスケがぽしょりと呟きました。
「実はボク、パパとママがいないんだ。だから、嘘でもお母さんって呼べるのが嬉しくて、舞い上がっちゃっていつものヨウタみたいに振舞えなかったかもしれない。それでバレちゃったんだよ。ほんとうにごめんね」
シンスケの告白に、ヨウタは胸がズキリと痛むような感覚を覚えました。
「……シンスケ、もう一回後ろ向いてよ」
「もう一回?いいけど……」
シンスケが背中を向けると、ヨウタは自分の服のお腹の部分を引っ張り上げて、シンスケの背中に書いてある文字をゴシゴシと消し始めました。
すると、黒く肌に刻まれていたような文字は、不思議とキレイさっぱり消えていきました。
「これでもうボク達は家族だからさ、今度は二人でおうちに帰ろうよ」
シンスケは目を丸くしたあと、照れるように鼻頭を触りました。
そうして、ヨウタとケンスケは手をつないでおうちに帰っていきました。
ヨウタとシンスケはお互いの考えていることが手に取るように感じとることができました。今、何を食べたいか。何をして遊びたいか。何を話したいか。まるで、心が繋がっているかのような二人が仲良くなるのは必然的なことでした。
ある日の事でした。学校の算数のテストでヨウタとシンスケは全く同じ点数を取りました。それを見て、学校の先生はからかうようにいいました。
「ヨウタとシンスケは本当に似ているなぁ。もしかしたら、二人は兄弟なんじゃないか?」
それはヨウタとシンスケにとって願ってもいない事でした。それが本当だったら、こんなに幸せな事はありません。兄弟なら一緒の家に住めて楽しい時間を二人で過ごせると思ったからです。
その日、学校から駆け足でおうちに帰ったヨウタはお母さんに詰め寄りました。
「ねえ、お母さん。ボクに兄弟っている?」
瞬間、お母さんの顔色が悪くなりました。顔を逸らして小さな声で囁くように言います。
「いるわけがないでしょう。そんなことをいっていないで早く手を洗ってきなさい」
その怪しい言動を見て、ヨウタはお母さんがウソをついていると思いました。日頃からお母さんには、舌を抜かれちゃうからウソはついちゃダメだよ、といわれていたヨウタはお母さんがウソをついたことに腹を立てます。そこで、ヨウタはお母さんに対して一つのいたずらをすることにしました。
次の日学校が終わった後、ヨウタはシンスケを近くの公園に呼び出しました。
「これから、ボクの代わりにおうちに帰ってほしいんだ」
「……もしかして、お母さんと喧嘩したの?」
心で繋がっているシンスケは事態をすぐに理解して、ヨウタにいたずらに手を貸してくれることになりました。
「頼まれる代わりに、一つお願いがあるんだけどいいかな?」
作戦を立て終えた公園からの帰り際、シンスケは聞き逃してしまうほどの小さな声でヨウタに尋ねました。
「もちろんだよ。どんなこと?」
「……その時だけ、ヨウタのお母さんの事をお母さんって呼んでもいい?」
予想もしないシンスケのお願い事に、ヨウタは首を傾げました。
「それは全然いいけど……」
「ほんとに?ありがとう!」
ヨウタがいうと、シンスケは飛び上がらんばかりに喜びました。ヨウタにはシンスケがなんでこんなに喜んでいるかわかりませんでした。それは二人が出会って、初めてわかりあえないことでした。その違和感に頭を悩ますヨウタを尻目に、シンスケはスキップでもするような足取りでヨウタの家へと向かって行きました。
ヨウタが公園のブランコに揺られて数十分が経った時、公園にシンスケが戻ってきました。思ったよりも早い戻りだったので、なにかあったのとヨウタは尋ねます。
「ごめん。すぐにばれちゃった」
肩を落とし、ひどく落ち込んだ様子のシンスケは申し訳なさそうにいいました。
「なんかね、家に着いた時からボクの些細な行動からお母さんは怪しんでいたみたいでさ。『背中を見せて』っていわれたから、見せたらばれちゃったんだ」
「背中を見せたら?」
「うん」
ヨウタは頭を捻らせて考えました。そうして、もしかしたらシンスケの背中にヨウタと見分ける何かがあるのかもしれないと考えました。
「ねえ、ちょっと背中を見せ合いっこしてみようよ」
二人は服をめくり、背中を見比べます。すると、二人に大きな違いがあることが分かりました。
「……4…687?」
ヨウタは他の国の文字はわかりません。読めたのは、シンスケの背中に黒く書いてある数字だけでした。
二人はお互いの顔を見合わせて首を傾げました。不思議な沈黙が二人の間に流れます。
ややあって、シンスケがぽしょりと呟きました。
「実はボク、パパとママがいないんだ。だから、嘘でもお母さんって呼べるのが嬉しくて、舞い上がっちゃっていつものヨウタみたいに振舞えなかったかもしれない。それでバレちゃったんだよ。ほんとうにごめんね」
シンスケの告白に、ヨウタは胸がズキリと痛むような感覚を覚えました。
「……シンスケ、もう一回後ろ向いてよ」
「もう一回?いいけど……」
シンスケが背中を向けると、ヨウタは自分の服のお腹の部分を引っ張り上げて、シンスケの背中に書いてある文字をゴシゴシと消し始めました。
すると、黒く肌に刻まれていたような文字は、不思議とキレイさっぱり消えていきました。
「これでもうボク達は家族だからさ、今度は二人でおうちに帰ろうよ」
シンスケは目を丸くしたあと、照れるように鼻頭を触りました。
そうして、ヨウタとケンスケは手をつないでおうちに帰っていきました。