第1話

文字数 798文字

ふと思い立って、私はキッチンに立つ。
最近は買った野菜や肉は、すぐに冷凍保存してしまう。
時間がないとか、忙しいとか理由を付けて、自分の為にちゃんとしてあげられていない。
冷凍庫に隙間なく詰められた食材をみて、想像力を働かせる
自分の為だけの料理は、やっぱり腰が重い。
けれどこのままじゃダメだ。
いつまでも野菜を眠らせておくのは可哀想だし、買った意味がない。

かといって何種類も作るのは、正直めんどくさいな。
…例えばこれはどうだろう。
トマト缶で、数種類の野菜を煮込んで、パンにもパスタにも合うトマトソースを作る。
うん、これならみじん切りの手間だけで済むじゃないか。
肉を焼いてかけるだけ、ひき肉はハンバーグにして、このソースをかけるだけ。

よし、やる気が出てきた!スイッチが入ってしまえばあとは早い。
カシュっと缶を開ける音がスタートの合図。
保存していたニンジンや玉ねぎ、ビーンズ達がようやく巡り会う。
夜遅くに動き出したから、何時に出来上がるかは分からないけれど、たまにはこんな日があってもいい。
久しく嗅いでいなかったニンニクの香ばしいかおり
コンソメを入れたあとは、帰り道の誰かの家の夕飯のかおりが部屋に充満する。

わたしがわたしの為だけに作っているトマトソース。
コトコト煮込んで、タイマーであと10分。

久々にキッチンが音を鳴らす。深夜の舞踏会に、ワクワクした気持ちになる。

スマホで調理過程の写真を撮ろうと画面を見たら、もう24時50分。
もう、呟こうにも微妙な時間になっていたけれど、写真を投稿する
わたしはちゃんと出来た、偉いから誰かに褒めて欲しい。
自分の為だけの深夜のクッキング。
作ったソースは保存して、明日から食べるんだ。

一通り片付け、満足したわたしは、ベッドの明かりを消す前に、さっき投稿した写真を見てみた。
ハートがひとつ、ついていた。
嬉しい。こんな時間に誰かか見てくれたんだ。

ありがとう。今夜はよく眠れそう。






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