第1話
文字数 500文字
剣は互いを高め、「鋭」と「応」の掛け合いの中に、全てが含まれている。
井草藩小烏流道場。久瀬半助と剣友猿田庄蔵は、剣を交えることが楽しかった。
半助の木刀が庄蔵の指を砕いてしまった不慮も、ただの天運に過ぎない。
しかし天運に右の人差指と中指を奪われた庄蔵は、道場を辞めた。
遺された半助も、大切な友を失ってから剣を持たない。
一年後、庄蔵が半助を訪ね、言った。
「剣を掴めぬ俺が哀れと思うか。五年後、俺と立ち会え」
そう言って、消息を断った。
それは負け惜しみか呪詛の類か。しかしその日から、半助の手に剣が再び握られた。
五年後。
約束の日、小烏流道場師範代の前に、道場破りは現れた。
どのような修練を積んだのか、猛禽の爪の如く変形した指三本が木刀を確と掴む。天魔の掴み。
されど、師範代と天魔の構えは、共に正調の小烏流。
そこには清澄な剣気のみがある。
『俺から剣を奪ったことを悔やみ、お前の剣が失われることが、耐えられなかった。だからあんな言い方をした』
『お前が必ず帰ってくること、俺は知っていた。だから、必死に鍛え上げたぞ』
剣は互いを高め、「鋭」と「応」の掛け合いの中に、全てが含まれている。
井草藩小烏流道場。久瀬半助と剣友猿田庄蔵は、剣を交えることが楽しかった。
半助の木刀が庄蔵の指を砕いてしまった不慮も、ただの天運に過ぎない。
しかし天運に右の人差指と中指を奪われた庄蔵は、道場を辞めた。
遺された半助も、大切な友を失ってから剣を持たない。
一年後、庄蔵が半助を訪ね、言った。
「剣を掴めぬ俺が哀れと思うか。五年後、俺と立ち会え」
そう言って、消息を断った。
それは負け惜しみか呪詛の類か。しかしその日から、半助の手に剣が再び握られた。
五年後。
約束の日、小烏流道場師範代の前に、道場破りは現れた。
どのような修練を積んだのか、猛禽の爪の如く変形した指三本が木刀を確と掴む。天魔の掴み。
されど、師範代と天魔の構えは、共に正調の小烏流。
そこには清澄な剣気のみがある。
『俺から剣を奪ったことを悔やみ、お前の剣が失われることが、耐えられなかった。だからあんな言い方をした』
『お前が必ず帰ってくること、俺は知っていた。だから、必死に鍛え上げたぞ』
剣は互いを高め、「鋭」と「応」の掛け合いの中に、全てが含まれている。