かたとき【片時】
文字数 596文字
「
「・・・は?」
開けた窓から心地の良い秋風が入り、彼のフワフワとした髪を揺らす午後。
唐突な私の問いには、疑問の声が返ってきた。
「ラブソングとか、恋愛ドラマで聞く【片時も離れない】とかの【片時】。
これってさ、何分くらいをイメージしてる?」
「あー、、1分、とかか?いや、、数秒かもな」
「しらねぇよ」と返したところで、私が諦めない事を彼は良く知っている。
ため息混じりで出てきた彼の答えを聞いて、古びた国語辞典から仕入れたばかりの情報を自信満々で披露する。
「片時は
で、一時は現在の約2時間。つまり、片時は約1時間なの」
「、、あっそ。」
相も変わらず興味のなさそうな言葉しか返って来ないが、構うものか。
「【片時】のドラマチック性が下がったと思わない?
1秒も離れたくない!から、1時間も離れたくない!だよ?
まあ、現実として考えたら、1時間だとしても大分ドラマチックでロマンチックな事だと思うけどさ~」
「どうでもいいわ。」
素朴な疑問からのガッカリ感とでもいうのだろうか。
押し寄せる現実感のような物を、彼に共感してもらいたかったのだが、背中を向けられてしまった。
久々の休みだし、このまま昼寝でもするつもりだろう。
「片時の半分はないのかな?」
つぶやきながら辞書のページをめくる私と、あっという間に寝息を立てはじめた彼。
そういえば、片時も離れていない。