十六箇所目 田端文士村記念館 田端
文字数 2,115文字
田端には王様が住んでいます。
王様は高い所がお好きです。
庭の高枝になんなく登り、うれしそうな、悲しそうな、何かを直視する目で、自分を見つめます。
そんなに目力が強いんじゃ、さぞや疲れる日々だったことでしょう。
そうか、疲れる日々だから、王様は甘いものがお好きだったのですね。
おしるこ大好き龍之介さん。
王様の名前は、芥川龍之介、と言いました。
山手線の田端駅で降りて、改札を出て広い道路を渡ってすぐのところに、田端文士村記念館があります。
この辺りは、昭和初期、芸術家たちが集って文化醸成の地盤を形作っていました。彼 の高村智恵子も通っていた太平洋画会、その会の同士がつくったポプラ倶楽部は、テニスが盛んな芸術家たちの親睦団体でした。田端は芸術家村としてまずは大いににぎわいました。
そこに、王様がやってきました。
王様はとても魅力的だったので、ひきよせられるように、文士たちが集まってきたのです。
大正3年に、当時東京帝国大学3年だった芥川龍之介が移り住み、大正5年には、室生犀星がやってきます。二人はライバル同士のように作品を発表し合って、それに刺激されるかのように、菊池寛、堀辰雄、萩原朔太郎、土屋文明、平塚らいてう、佐多稲子らの、作家たちが集まり、大正から昭和初期にかけて、田端は文士村へと変貌したのでありました。
田端の王様は、文士芸術家村の様相を呈していた田端を、こんな風に描いています。
「東京田端」
時雨に濡れた大木の梢。時雨に光つてゐる家家の屋根。
犬は炭俵を積んだ上に眠り、
鶏は一籠に何羽もぢつとしてゐる。
庭木に烏瓜の下つたのは鋳物師香取秀真の家。
竹の葉の垣に垂れたのは、画家小杉未醒の家。
門内に広い芝生のあるのは、長者鹿島龍蔵の家。
ぬかるみの路を前にしたのは、俳人滝井折柴の家。
路石に小笹をあしらつたのは、詩人室生犀星の家。
椎の木や銀杏の中にあるのは、
――夕ぐれ燈籠に火のともるのは、茶屋天然自笑軒。
時雨の庭を塞いだ障子。
時雨の寒さを避ける火鉢。
わたしは紫檀の机の前に、一本八銭の葉巻を啣へながら、
一游亭の鶏の画を眺めてゐる。
天然自笑軒は、茶、花を嗜む趣味の一宮崎直次郎の料亭で、芥川の結婚披露宴会場です。
常設展を順を追って見ていくと、いかに多くの文学者たちが、田端と関りをもっていたかがわかって興味深いです。
田端文士村記念館の常設展で、樹上の王様の雄姿をぜひご覧ください。
近代文学の貴重な資料を無料で(時々新資料の公開もある)拝見できるここは、さすがに文の京 の施設です。
ここで、毎回立ち止まってしげしげと眺めるのは、田端の王様だった芥川龍之介を中心とした人物相関図。
友人、尊敬、師弟、と記された中で、ひときわ輝いているのが「親友」。
親友の名は、室生犀星。
室生犀星の自伝的小説『杏つ子』に、都会の青年芥川龍之介が登場します。
企画展は、王様とその周辺の文士たちのテーマが多いのですが、訪れた時に開催されていたのは、田端の芸術家村の人々の展覧会です。
前回の企画展では、文士・文豪漫画がいくつも展示されていました。
文士・文豪の皆様は、一様に麗しくなられていますが、作者の皆様の愛が感じられる作品となっていて面白く、思わずくすりと笑みがもれいずるのでありました。
王様と犀星はよく行き来していたようで、犀星の自伝的小説「杏っ子」には、金沢にやって来た時のことが描かれています。
さて、気軽に立ち寄れる文学記念館のこちらへは、たびたび訪れています。近いところでは、企画展「文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~」へ立ち寄りました。
この企画展では、田端の王様芥川龍之介を中心に、『新思潮』、『感情』、『赤い鳥』、『金の星』、『文藝春秋』、『驢馬』といった、大正時代から昭和初期にかけての文学雑誌をめぐる文士たちの青春エピソードが紹介されていました。初公開資料も何点かありました。
今回は、ゲームの「文豪とアルケミスト」とのタイアップで、展示会場の其処此処に美形化文士たちのパネルの撮影スポットが設置されていました。
売切れ必至とのウワサもあったので、知人へのプレゼント用に企画展オリジナルコラボグッズのクリアファイルとポストカードを求めました。
グッズのイラストは「田端デノ想イ出ト共ニ」のタイトルで、芥川龍之介と室生犀星と萩原朔太郎の会食シーンが描かれています。クリアファイルの裏面は田端文士芸術村マップでかなり詳しく描かれています。マップを見ると、本当に多くの文化系の人々が集っていたのだなと一目瞭然です。
こちらで無料配布されている「田端文士芸術家村しおり」「田端文士村ガイド&マップ」は、とても充実していわかりやすいので、界隈の文学散歩の道しるべにどうぞ。
受付の横のスペースでは、絵葉書と田端文士村にちなんだ本が販売されています。
今回求めた『田端文士村』は、これ一冊で、田端の文士たちが生き生きと活動していた様子がうかがわれます。
<田端文士村記念館>
最寄駅 山手線「田端」駅
関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。
<買った本>
『田端文士村』
近藤富枝著
中央公論新社発行
王様は高い所がお好きです。
庭の高枝になんなく登り、うれしそうな、悲しそうな、何かを直視する目で、自分を見つめます。
そんなに目力が強いんじゃ、さぞや疲れる日々だったことでしょう。
そうか、疲れる日々だから、王様は甘いものがお好きだったのですね。
おしるこ大好き龍之介さん。
王様の名前は、芥川龍之介、と言いました。
山手線の田端駅で降りて、改札を出て広い道路を渡ってすぐのところに、田端文士村記念館があります。
この辺りは、昭和初期、芸術家たちが集って文化醸成の地盤を形作っていました。
そこに、王様がやってきました。
王様はとても魅力的だったので、ひきよせられるように、文士たちが集まってきたのです。
大正3年に、当時東京帝国大学3年だった芥川龍之介が移り住み、大正5年には、室生犀星がやってきます。二人はライバル同士のように作品を発表し合って、それに刺激されるかのように、菊池寛、堀辰雄、萩原朔太郎、土屋文明、平塚らいてう、佐多稲子らの、作家たちが集まり、大正から昭和初期にかけて、田端は文士村へと変貌したのでありました。
田端の王様は、文士芸術家村の様相を呈していた田端を、こんな風に描いています。
「東京田端」
時雨に濡れた大木の梢。時雨に光つてゐる家家の屋根。
犬は炭俵を積んだ上に眠り、
鶏は一籠に何羽もぢつとしてゐる。
庭木に烏瓜の下つたのは鋳物師香取秀真の家。
竹の葉の垣に垂れたのは、画家小杉未醒の家。
門内に広い芝生のあるのは、長者鹿島龍蔵の家。
ぬかるみの路を前にしたのは、俳人滝井折柴の家。
路石に小笹をあしらつたのは、詩人室生犀星の家。
椎の木や銀杏の中にあるのは、
――夕ぐれ燈籠に火のともるのは、茶屋天然自笑軒。
時雨の庭を塞いだ障子。
時雨の寒さを避ける火鉢。
わたしは紫檀の机の前に、一本八銭の葉巻を啣へながら、
一游亭の鶏の画を眺めてゐる。
天然自笑軒は、茶、花を嗜む趣味の一宮崎直次郎の料亭で、芥川の結婚披露宴会場です。
常設展を順を追って見ていくと、いかに多くの文学者たちが、田端と関りをもっていたかがわかって興味深いです。
田端文士村記念館の常設展で、樹上の王様の雄姿をぜひご覧ください。
近代文学の貴重な資料を無料で(時々新資料の公開もある)拝見できるここは、さすがに
ここで、毎回立ち止まってしげしげと眺めるのは、田端の王様だった芥川龍之介を中心とした人物相関図。
友人、尊敬、師弟、と記された中で、ひときわ輝いているのが「親友」。
親友の名は、室生犀星。
室生犀星の自伝的小説『杏つ子』に、都会の青年芥川龍之介が登場します。
企画展は、王様とその周辺の文士たちのテーマが多いのですが、訪れた時に開催されていたのは、田端の芸術家村の人々の展覧会です。
前回の企画展では、文士・文豪漫画がいくつも展示されていました。
文士・文豪の皆様は、一様に麗しくなられていますが、作者の皆様の愛が感じられる作品となっていて面白く、思わずくすりと笑みがもれいずるのでありました。
王様と犀星はよく行き来していたようで、犀星の自伝的小説「杏っ子」には、金沢にやって来た時のことが描かれています。
さて、気軽に立ち寄れる文学記念館のこちらへは、たびたび訪れています。近いところでは、企画展「文士たちのアオハル~芥川龍之介と田端の雑誌~」へ立ち寄りました。
この企画展では、田端の王様芥川龍之介を中心に、『新思潮』、『感情』、『赤い鳥』、『金の星』、『文藝春秋』、『驢馬』といった、大正時代から昭和初期にかけての文学雑誌をめぐる文士たちの青春エピソードが紹介されていました。初公開資料も何点かありました。
今回は、ゲームの「文豪とアルケミスト」とのタイアップで、展示会場の其処此処に美形化文士たちのパネルの撮影スポットが設置されていました。
売切れ必至とのウワサもあったので、知人へのプレゼント用に企画展オリジナルコラボグッズのクリアファイルとポストカードを求めました。
グッズのイラストは「田端デノ想イ出ト共ニ」のタイトルで、芥川龍之介と室生犀星と萩原朔太郎の会食シーンが描かれています。クリアファイルの裏面は田端文士芸術村マップでかなり詳しく描かれています。マップを見ると、本当に多くの文化系の人々が集っていたのだなと一目瞭然です。
こちらで無料配布されている「田端文士芸術家村しおり」「田端文士村ガイド&マップ」は、とても充実していわかりやすいので、界隈の文学散歩の道しるべにどうぞ。
受付の横のスペースでは、絵葉書と田端文士村にちなんだ本が販売されています。
今回求めた『田端文士村』は、これ一冊で、田端の文士たちが生き生きと活動していた様子がうかがわれます。
<田端文士村記念館>
最寄駅 山手線「田端」駅
関連ホームページで、詳細をご覧いただけます。
<買った本>
『田端文士村』
近藤富枝著
中央公論新社発行